シカゴ空港での入国審査は思ったよりも時間がかかった。というのも、係の兄さんがこれまた無駄にフレンドリーで無駄な質問が多かったのだ。いきなり「How's it going?(元気?)」と言われて面食らい「えっ・・・まぁ、元気」と答えたら、「ホントに?」と疑いの眼差し。その後、職業やら居住地などあれこれ質問されたが、旅の目的のところで「この後ジョージアに行く」と言うと「何しに?」・・・
「20年前に留学していたから、その時に住んでいた町に」
「20年前?その時そこで英語を学んだの?」
「まぁ・・・そうかな」
「で、ジョージアの後は?」
「サンフランシスコへ」
「長旅だね〜。サンフランシスコでは何するの?観光?パスポートを見ると、沢山旅しているようだけど、去年はどこに行ったの?」
この時点で沢山沢山沢山の質問に答えているので、そんなことまで答える必要があるのかと思いつつ「マレーシア」と答える。
「前回アメリカに来たのはいつ?」
「だから!さっきも言ったけど、20年前」
「いやいやいや・・・違うだろう?!」
「えっ!!!20年前だけど。合衆国本土はね」
とか何とか言いながら、やっと尋問は終わり無事に入国出来たのだが、よくよく考えたら去年パラオに行った際、グアムで乗り継ぎをしていて、その時アメリカに入国しているので、パスポートにはその記録があったのだった。「嘘ついた!!」などと変な疑いをかけられて別室に連行されなくて良かった・・・。

シカゴの空港で約2時間の待ち時間があった。あと少しで懐かしのジョージアに着き、20年ぶりに再会する人たちがいると思うと緊張してたまらなくなった。同時に信じられない思いだった。100回以上は妄想した再会のシーンが現実になるとは!

シカゴからアトランタまで2時間のフライト中も胸は高鳴っていた。そしてアトランタ空港に着き、案内に従って進んで行くと既に出口。迎えの人たちが沢山待っている。あれ?まだ預けたスーツケースを受け取っていないのに・・・どうなってるんだ?!とキョロキョロしていると、前方から見覚えのある懐かしいオッサンが向かって来た。紛れもなく、僕を迎えに来たK先生だ!
「ハッローーー!!!久しぶりー!!!!!元気だった?」
アメリカ式にハグをして20年ぶりの再会を喜び合った。
「挨拶もそこそこに悪いんだけど、スーツケースをまだ受け取ってなくて・・・どうすればいいんだろう?」
「それならあっちにあるよ」
なんとアトランタの空港は、預けた荷物を受け取ってから出口に出るのではなく、出口に出てから荷物を受け取るのだった。無事にスーツケースを受け取り、K先生の車でまずはアトランタ市内に向かう。
「先生、ランチは食べた?」
「まだだよ」
「じゃあアトランタ市内で今から食べようよ」
「何が食べたい?」
「20年ぶりにTEX-MEX(テキサス風メキシコ料理)にしようかな」

車の中では思い出話に花が咲く。
「20年ぶり・・・信じられる?それにしても20年会わない間に、先生は太って老けて、すっかりじーさんになったじゃん!」
「まったく君は相変わらず憎たらしいこと言うね〜!確かにちょっと太ったけど。君は変わらないね。見た目もそうだけど、中身も変わらない!当時のまんま、憎たらしいね!」
「先生が太って老けてジジーになったのは事実じゃん!けど、当時から先生のことを“You're old”(老けてる)って言い続けてたけど、当時先生はまだ40代だったよね?」
「そうだよ。君ももうすぐその年代だろう?」
「うん・・・実際のところ、先生は当時まだ40代だったんだから、今から思うと老けてはいなかったんだね。・・・老けてたけど」
「まったく君は!!皆でニューヨークに行った時のこと覚えてる?君に“今、何考えてるの?”と訊いたら、何と答えたか覚えてる?」
「覚えてない。何て言った?」
「“K先生は老けてる、ってことを考えてた”って言ったんだよ!あの言葉は忘れられないね!」
「ああ!覚えてる!!」
「ホント、君は憎たらしかった。それから、君には手にハナクソを付けられた!」
「えっ?!?!ハナクソ?先生の手にハナクソ付けたの?」
「そうだよ!!覚えてない?」
「それは覚えてないなぁ・・・・・・というか、先生ってものすっごく忘れっぽくて、何も覚えてない人だったのに、よく色々覚えてるね」
「ハハハハハハハ」
「いっつも先生に“忘れないで!”“あくびをしない!”“腹減った!”ってばかり言ってた記憶がある」
「そうだったそうだった!」
「そうそう、今回自分のCD持ってきたんだけ・・・あ、“CD”って何のことか、分かる?」
「CDが何のことか分かるかって?そりゃ分かるよ!」
「あ、分かるんだ!先生は古い人だからレコードしか分からないかと思った」
「まぁぁぁぁぁったく、君は〜〜〜!」
てな具合に、20年前と変わらない会話が続くのであった。


1995年4月、コーラスのクラスの皆とカーネギーホールでのコンサート出演の為、ニューヨークへ

メキシコ料理レストランでスパイシーなステーキを食べる。味は悪くないが、量が凄い。でも当時、僕はアメリカのレストランで「量が多すぎる」と感じたことは一度もなく、常にペロリと平らげていた。十代の胃袋は凄まじい。同時に、こんなこってり料理を大量に、しかも日常的に食べているアメリカ人。そりゃあ、太るわなぁ。K先生は健康に気を使い、ファストフードには行かないし(マクドナルドはもってのほか)、コーラも飲まないと言う。
「アメリカの食事はすぐに太るから。気をつけないと」
「先生は健康に気を付けてるんだね(その割には太ったけどね・・・と、心の声)」
「そうだよ、ジムにも行ってるし。パーソナル・トレーナーも付けてトレーニングしてるよ」
「エーーーーッ?!?!信じられない!ジムに行ってるって・・・それ、夢か妄想か願望じゃないの?」
「コウ!!!!!まったく君は!!」
「ジムに行っててその体型?」
「でも筋肉付いてるから!」
それだけ食事にも運動にも気を使っている人が、こんなにも太ってしまうアメリカって正に夢の国だ。



20年ぶりのTEX-MEX

Part 5 「なぜか日本食レストランで」へ

INDEX
Part 1 20年ぶりに降り立ったアメリカ、その時胸の高鳴りは…
Part 2 誰も迎えに来られず、あわや“空港でひとり茫然物語”…?
Part 3 出発前からイライラ…すべてがスムーズに行くワケはない
Part 4 ついに再会!けど、冗談もほどほどに!
Part 5 なぜか日本食レストランで
Part 6 記憶にございません
Part 7 マッサンと美しいケツ
Part 8 穏やかな人、穏やかな空間、切ない時間
Part 9 See you later, alligator!
Part 10 ジョージア最終日に“だっふんだ!”
番外編 サンフランシスコぶらり散歩〜ミッション・ポッシブル〜