第68話
「学校最終週」
前編

5月22日(月)、いよいよ最終週だ。フランス語の日常テストで95点を獲った。ファイナル(期末テスト)で92点獲らないと、A評価にならない。頑張らなくては!

この日の放課後、コーラスのクラスのピクニックがあった。フィリップに「明日、FCAのパーティーがあるけど行かない?」と誘われた。僕は既にFCAミーティングには行っていなかったが、パーティーには誘われたのだから行こうと思った。僕たちの会話を小耳に挟んだスティービーという女の子(一緒にニューヨークにも行き、とても仲良くなった美女)が、「あら、何処に行くの?」と訊いてきた。
「ハハハ・・・“秘密の場所”に」
僕が笑いながら答えると、
「何、フィリップと“秘密の場所”に行くわけ?!」
スティービーは不思議そうに僕の顔を覗き込んできた。

帰宅すると、PIEから帰国便の航空券が届いていた。が、アトランタ空港からではなくオーガスタ空港からの出発となっていた。去年の夏アメリカに到着した時、最終目的地がオーガスタ空港だったので、その記録を元にオーガスタ空港からの出発という復路になったのだろう。今はもう引っ越してアトランタだというのに!PIEにすぐに連絡をして、航空券を送り返した。全く、大丈夫なのだろうか?6月9日出発だというのに・・・。でも、去年アメリカに来る時は東京−ロサンゼルス間が大韓航空だったのに、帰国便のロサンゼルス−東京間は日本航空だったので驚いた。PIE大奮発?!

エリアレップのデニスと電話で最終トーク。いよいよ僕の留学生活は終わりに近づいていた。

ニューヨーク以来、仲良くしていたウェスリーの態度は最近おかしかった。シャエンも同じようにおかしく、どうも何かがあるようだったが、気にしないようにした。

5月23日(火)、放課後はフィリップとFCAのパーティーに行くつもりだったのだが、当日になって「パーティーは中止になった」とフィリップに言われ、じゃあ買い物に行こうということになった。フィリップの車で彼の家に行き、4時半までつまらないテレビを観て、それからモールに出掛けた。郵便局に寄ってもらい、モールへの道中、何もしていないのにワイパーが勝手に動いた。フィリップが「何もしていないのに」と驚いていたので、僕が、
「不思議な力を持ってるから・・・」
と意味深に言うと、「止めろ!」と本気にしていた。

モールでブラブラしていると、フィリップの友達ケリーに会った。
「こちら、友達のコウ」
「Nice to meet you.(はじめまして)」
「はじめまして!あなたたち、ホントにいい友達なの?」
「うん」とフィリップ。
「昨日から」と僕。
「フィリップと一緒にいて、楽しい?」
「楽しいよ」
「楽しい時間を過ごしてるよ。日本も日本人もキライだけど」とフィリップ。
続いてフィリップは、ニューヨークでの出来事を語り始めた。僕がニューヨークの店で日本人スタッフに中国人と間違えられたこと、道端で shit(クソ)と大声で言ったこと、皆の前で booger(鼻クソ)って何?と訊いたことなど、一通り暴露した後、フィリップは僕の方を向いておもむろに言った。
「You are funny...... looking.(君って面白い・・・・・・顔だね)」

僕はベリンダの誕生日プレゼントを探していた。ベリンダの希望で、コレクションにしている看護婦の置物を買うことは決まっていたのだが、どれもこれも高くて手が出ない。ベリンダは大層楽しみにしていて「もう買った?」「まだ買ってないの?」としょっちゅう僕に訊いてくる。
「高くて・・・」
と言うと、「じゃあ私が半額出すわ!」と提案してきたので、僕はそれを呑んだ。そうして手に入れた新しい看護婦の置物に、ベリンダは大喜びしていた。

モールを出て、僕たちは中華料理のビュッフェ(バイキング)に行った。相変わらず僕たちは子供のように争い、水にコーラを入れたり、油をつけたり、水を隠したりとバカげたことをしていた。フィリップがトイレに立ち、帰ってきた時、
「何か変化があったの、分かる?」
と僕が言うと、必死にどんないたずらをされたのか探していた。実際、僕は何もしていなかったのだが。
「あ、もう行かなきゃ」
「えっ、こんな時間に?」
「病院に行かなくちゃならないんだ」
「ワガママな奴!」
僕は冗談で「ワガママ」と言ったのだが、その瞬間、ずっとおちゃらけていたはずのフィリップの顔が曇り、突然真面目な顔で、
「なんで母親の見舞いに行くのが、ワガママなの?」
と言った。フィリップの母親は手術の為入院していたのだ。重い病気であることを僕が知ったのは、もっと、ずっと後になってからのことだった。
「来年の夏、アトランタ・オリンピックにボランティア通訳として来るかも知れないんだ。その時、君んちに泊めてよ」
「おお、もちろん!」
当時、僕は本気でオリンピックに来ようとしていたのだ。

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