第60話
「送り迎えで一悶着」

僕が通っていたキャス高校のあるカータースヴィルには、もう1校高校があった。その名もカータースヴィル高校。ケネディー先生のはからいで、そこの音楽室のピアノで練習出来ることになった。だが、そうするにしてもホストに送り迎えをしてもらわなくてはいけない。ベリンダは大学に行く時に送って行くから、帰りはデニーに迎えに来て貰えるよう頼んでみる、と協力的な姿勢でいてくれた。その日、ベリンダに「今日練習に行きたいのだけど、デニーは迎えに来てくれるのだろうか?」と訊いたら、「私まだ彼に確認していないから、あなた自分で訊いてきて」と言われたので、デニーに言いに行った。
「今日、カータースヴィル高校まで迎えに来てくれませんか?」
すると、今日はデニーの機嫌は悪いらしく、バカにするような目つきで僕を見た。僕が嫌いな目つき。
「ピアノの練習に行くのですが・・・」
「構わないけど(I don't care.)」
「迎えに来て欲しいのです」
デニーはあからさまにイヤな顔をして、「ベリンダと話す」と言い、ベリンダを呼んだ。
「コウがあなたに迎えに来てほしいんだって」
ベリンダが言った。まぁそれはそうだが・・・出来ればデニーには頼みごとをしたくなかった。結局、嫌がるデニーは僕にポケベルを持たせ、
「このベルが鳴ったら、すぐに音楽室を出て校門で待ってろ。1分1秒たりとも待たせるんじゃない。分かった?」
と言った。この時期、ダラスはカータースヴィルでボールゲームの練習が頻繁にあり、デニーが送り迎えをしていたので、そのついでであればいいなと思ったのだが、その日はなく、ベリンダが「あなただけの為に、デニーは小旅行に出るのよ」と言うので、僕はうなだれてしまった。

僕は5歳からピアノを続けていた。ずっと同じ先生だったのだが、何度かレッスンの場所が変わった。一時期、親に車で送り迎えをしてもらっていたことがある。先生が「こうしてあなたがピアノを続けていられるのは、両親の協力もあるからだよ」と僕に言っていたことを思い出し、その本当の意味が分かったような気がした。バックがしっかりしているから、僕はやりたいことが出来るのだ・・・。

悶々とピアノを練習していると、ポケベルが鳴った。僕はいそいそと片付けをして、校門に向かった。車にはダラスも乗っていた。クリスタルというファーストフードのドライブスルーでハンバーガーを買ったのだが、なぜか僕は3ドル払わせられた。ベリンダのいない時はいつもこういう現象が起きる。

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