第58話
「イースター」

4月16日(日)はキリストの復活祭、イースターの日である。朝、ホストと一緒に教会に行った。中学生の頃から数えて、僕がホームステイをしたのはこの家で4軒目だったが、信仰深くないホストファミリーは初めてで、僕が彼らと教会に行ったのはこの日が最初で最後である。教会に行った後、ベリンダの友達ティーナの家でイースター・パーティーがあった。沢山の人たちが集まっていた。それぞれに食べて飲んで、そしてベースボールやバレーボールで遊んでいた。だが僕はスポーツが好きではない。更に人見知りする性格ゆえに、あまり楽しめないでいた。ベリンダが「人と打ち解けなさい!」と言った。

イースターでは大人が卵をあちこちに隠し、それを子供たちが探すのが伝統的な行事だ。これはイースターバニーというウサギ(繁殖を象徴する縁起のいい動物)がやってきて、「新生」を象徴する卵を隠すことから来ているものらしい。カラフルに色づけした卵を庭に沢山隠したが、大抵それは本物ではなく卵の形をしたお菓子(チョコレート)である。この隠す作業ではベリンダに「動作が遅い」と叱られた。ティーナのお母さんは「いい場所を探してるだけよね」とフォローを入れてくれたが・・・。

話す相手もおらず、ベリンダには叱られ、ゲームをやる気も起きず、ううなだれていた僕は、パーティーも終盤に差し掛かった頃、ティーナのおばあちゃんと色んな話をした。ケベック出身のフランス系カナダ人のその老婦人は、若い頃にアメリカに来た為、今ではもうフランス語は話せないと言う。折からの僕の表情を見て悟ったのか、僕の目を見つめ、やわらかな優しい声で、
「異国の地で、あなたが今どんな思いでいるのか、よく分かるわよ」
と、一言呟いた。僕は自分が抱えていた苦悩について話したわけではなかったけれど、悩んでいる人に対して、多くの慰めの言葉など必要ない。たった一言で心がほぐれる時がある。理解者がいてくれるだけで救われるのだ。

イースター休みも終わり、翌日から学校が始まった。・・・が、僕は寝坊してしまい、スクールバスに乗り遅れてしまった。ベリンダが仕事に行かず、家に居たのだが、
「早く起きてバスに乗らなきゃダメよ。今日は一日中家に居なさい」
と言った。が、10時頃、「送っていくわ!でもこれっきりよ」と言いながら部屋に入って来た。休みは終わっているというのに、なぜかダラスもトレイもトリーも家にいる。ベリンダまでも・・・。なぜだ?!

放課後、僕はケネディー先生とロームにあるショーター大学に、合唱のコンサートを聴きに行った。その帰り、夕飯を食べようとしたのだが、マクドナルドのドライブスルーは閉まっていて、中に入れば満席、クリスタルに行けば前の客の注文が長過ぎて、待って待って待って・・・。結局家に着いたのが夜11時15分。こういう場合でもベリンダは怒らない。
「いいのよ。ロームに行けば遅くなることくらい分かってるから!」

明日は寝坊しないように・・・と、その日はすぐに寝た。

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