第40話
「激痛」

1月3日、コロラド最後の日。この日はあまりツイてない1日だった。マイケル(ジェロール)とランチを共にするはずだったのだが、仕事の関係で遅くなり、モール(デパート)に行くくらいしか時間が取れなかった。ビルの妹ロンダに、「写真屋から連絡が来て、受け取られてない写真があるそうよ。夏にあなたが出して、取りに行ってない分じゃないかしら?」と言われたが、心当たりがなかった。マイケルと出かけたついでに写真屋に寄って貰い、写真を受け取ると、それは僕が出した写真ではなくマホリの分だった。

郵便局に行って小包を出したかったのだが、物凄い列だった為、諦めざるを得なかった。デパートで切手をまとめ買いし、後で計算してみると余分にお金を取られていた。どうやら計算間違いをされたようだった(後日ダイアンがお金を受け取りに行ってくれた)。不運は続き、ジョージアのホストにお土産を買ったのだが失くしてしまい、どこを探しても見つからなかった。

明日のことを考えると憂鬱で仕方がなかった。マイケルは昨日僕が話したことに心を痛めている様子だった。
「ジョークを言うのは人を楽しませようとしているからだけど・・・でも、アメリカ人には、人が傷つくようなことを、人の気持ちも考えずに平気で言う人もいるんだ」
そう言ってマイケルは僕を慰めた。

その夜、ビルとダイアンは僕を日本食レストラン「ハッピー・テリヤキ」に連れて行ってくれた。とても綺麗な店で、ウェイトレスも綺麗で親切だった。僕はすき焼きを食べた。日本の味!やっぱり日本食は美味しい!!!

レストランの帰り、カナコのホスト宅に寄った。僕はカナコのホストファーザーに「カナコが一生懸命勉強するのは嬉しい?」と訊いた。彼は「勿論!彼女が一生懸命勉強していい成績をとってくるのは嬉しいよ」と答えた。帰りの車の中で、僕はビルたちに話していなかった今の現状を正直に打ち明けた。
「ジョージアになんて帰りたくない」
心配させまいと気丈に振舞うつもりだったのに、思わず本音が出てしまった。
「君のホストファミリーは間違っている。エリアレップに相談すべきだよ。相談することは悪いことではないんだよ」
ビルにそう言われ、泣きたい思いにかられた。相談することは悪いことではない・・・。

翌朝、朝一の便に乗る為に、家を4時半に出なくてはならなかったのに、起きたら4時33分で僕は蒼ざめた!超特急で支度をし、何とか間に合った。ビルには「エリアレップに相談するんだよ」と再度念を押され、そして別れた。気分はすこぶる重かった。

飛行機の中ではずっと眠っていた。途中起きたら、顔の右半分に激痛が走った。これは何だろう?何の痛み?悪い想像をしてしまったのだが、すぐにおさまった。今思えば、きっとあれは精神的なものからきた痛みだったのだろうと思う。ジョージアに帰りたくない、そればかり思っていた。コロラドで優しい人たちに囲まれて過ごしたことによって、その思いは更に強まっていた。

アトランタの空港にはデニーが迎えに来てくれた。今日からまた現実が始まるのだ。家に着くと、僕宛の手紙が12通も届いていて、凄く嬉しかった。手紙を読むことが本当に楽しみだったのだ。必ず返事を書いていたので、必然的に手紙に費やす時間が多くなっていった。インターネットもEメールも普及していなかった時代である。1年間で受け取った手紙の数は100通を軽く超えていた。

ジョージアでの生活が再び始まり、リビングでテレビを観るつまらなさを重く噛み締めていた。そしてベリンダには、「おとなしすぎる」と言われた。もう、どうすればいいのか、何も分からなかった。

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