第38話
「デニー&ベリンダと合流」

デニーとベリンダとの待ち合わせ場所に、ビルが車で送ってくれた。カナコとノブコも一緒である。僕は憂鬱な一日が始まってしまったと思っていた。何も旅先でまでベリンダたちと一緒に居ることないのに・・・。カナコはベリンダを見るなり、
「綺麗な人だねぇ!」
と感嘆していた。密かにそれは僕も自慢したいところではあった。

スキーは中学生の時以来で、全く以って自信もなければやる気もなかった。リフトの降り方も下手で、ドジなことに一度は降りるタイミングを間違えて、リフトを止めてしまった!滑りながら何度も転んだ。けれどそうこうしているうちに、滑り方も覚え、スイスイ滑れるようになると、段々楽しくなってきた。しかもここはコロラド。ロッキー山脈である。ちょうどこの時期、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃も来ていたのだ。ロッキー山脈に降る雪は、本当に六角形で僕は初めて雪を見て感激していた。

夕方、デニーたちが泊まっているホテルに行き、シャワーを浴びてから夕食を摂りに出かけた。「何を食べたい?」と訊かれ、僕たちは「ピザを食べたい」と何度も主張したのだが、デニーは「BBQ(バーベキュー)がいい」と言い、結局BBQになってしまった。だったら聞くな!と言いたかった。この夜、僕たちも一緒にホテルに泊まることになっていたのだが、カナコは「せっかく夫婦2人で来てるのに、私たちが邪魔するようで悪くない?ビルの家に帰ろうよ」と恐縮していた。日本語で会話していたので、ベリンダが「何て言ったの?」と訊いてきた。そのまま英語に直して言ったところ、ベリンダは一笑に付した。
「何言ってんのよ!私たち、普段ちゃんとセックスもしてるのよ。今更そんなこと気にしないで頂戴!」
思わず噴き出しそうになった僕。そんなこと、わざわざハッキリと言われなくても、充分知っております。とは言わなかったが。

大して美味しくもないBBQを食べ、レストランを後にしたのだが、僕とノブコは気分が沈んでいた。ベリンダに散々コケにされたのだ。特にノブコに対する当たりが悪く、ベリンダの冗談はちょっときつかった。ホテルに戻ってからも、重い気持ちは続いた。
「コウは英語をあまり理解しない。いつも勉強して、手紙を書いてるばかりだし、凄くおとなしくて、自分の部屋にばかり居る」
常套句が始まった。それを聞いたカナコは少し驚き、反論してくれた。
「コウは一番面白いよ」
それを聞いたデニーとベリンダは、すかさず「えー?!コウはつまらない奴だよ(Ko is a bore)!」と吐き、僕は我が耳を疑った。確かに“bore”(退屈させる人、つまらない人)と言ったのだ。本人を目の前にして・・・。冗談がすぎやしないか?

僕たちは日本にいる同級生に電話を掛けた。傷つき果てていたノブコは、懐かしい同級生の声を聞くなり「今、コウ君のホストにいじめられて・・・」と訴え出した。僕もカナコもケラケラ笑っていた。僕が電話に出た時も、色々と面白いことを言って、ケラケラ笑った。そんな姿を見たベリンダは目を丸くしていた。こんなに喋って笑っている僕を見たのは初めてのはずだった。無理もない・・・。そのうち、日本語で話す僕たちに苛つき始め、ベリンダは見る見るうちに機嫌が悪くなり、「英語で話せ!」「電話を切れ!」「面白くない!(It's not funny!)」と言い出した。

寝る時には白い目で見られていた。やっぱり、旅先でまで合流する必要などなかったのだ。散々だった。ベリンダはノブコとカナコに「今度ジョージアに遊びにいらっしゃい」と言っていたが、当然の如く、ノブコは後になってから「遊びになんて行かない」と僕に言った。

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