第28話
「異国で迎えた誕生日」

11月6日は僕の誕生日で、奇しくもベリンダの息子トレイ(アラバマ州で父親と暮らしている)も同じ誕生日だった。しかもこの年は日曜日。6歳になるトレイと、17歳になる僕の誕生日を一緒に祝ってもらえることになった。

誕生日の4日前、ニューヨーク州の田舎村に留学している友人Nから誕生日プレゼントということでエリック・クラプトンのCDが届いた。ルイスヴィルにいた“エリック”に便乗したらしい。同じ日、母からもバースデーカードが届き、そして祖父からの手紙が同封されており、母のバースデーカードに感動した後、祖父の手紙を読んだのだが、一行目を読んだ瞬間、涙が出てしまった。
「功が行ってからだいぶ経ったような気がする」
この時点で、僕の涙腺は緩んでいたのに、更に涙を誘う文章は続いた。
「功が渡米して3ヶ月しか経たないのに、とても長く感じる」
僕も随分長くアメリカにいるような気がしていた。早く日本に帰りたい。明日にでも帰りたい。本当はずっとそんなことを思っていた。きっとルイスヴィルにいた頃から・・・。でも中途半端のまま帰ることは出来ないし、何が何でもやり遂げなければならない。

誕生日当日は、起きてすぐにプレゼントを貰い、更にベリンダからのバースデーカードに感動した。その後、アトランタにある遊園地 Six Flags に行った。でも心から楽しめていない自分がいた。喋らなければ、喋らなければ・・・という意識ばかりが強くて、無口になっていた。きっとそんな態度に、ホストは心配しているだろうな、と思った。せめてもっと英語が話せるようになってから誕生日を迎えられたら良かったのに。けどアメリカに来て3ヶ月なのに、なんで自分の英語はこんなにも幼稚なのだろう。24時間頭の中を英語にすべきだろうか。日本語の歌を毎日のように聴いてるからだろうか。などと、頭の中は行ったり来たり、同じようなことを繰り返し考えていた。

この頃、僕は何をしていても楽しめなかった。誕生日の1週間前には、大騒ぎのハロウィーンがあり、僕も仮装をして近所にお菓子を貰いに行ったが、心の中は冷めていた。

せっかくのアメリカでの誕生日。僕の16歳は暗く終わり、17歳が暗く始まった。

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