第89話
日食&冗談みたいな話

8月11日(水)。なんと今日は日食の日。パリでは12時23分頃に見られるということで、授業に出ているアサミヤを尻目に、僕とポン子はリュクサンブール公園に出かけて行った。この日食の為に観光客が増えて、人口が4倍になるなどという報道もされていた。だが、皆既日食ではなく部分日食とのこと。それでも初めての日食に大興奮していた。日食の時に肉眼で太陽を見ると失明をする恐れがあるとのことで、パリでは日食観賞用メガネを配布していた。その昔は、そんな知識もなく、いきなり昼間に暗くなり、それで空を見上げれば失明、という事態に人々は怯えたそうだ(今でも発展途上国などでは充分な知識がない為に、肉眼で見てしまい目を悪くするケースがあるという)。僕なんぞ、それ用のメガネを持っているにも関わらず、「肉眼で見ちゃいけません!」などという警告を何度も見た為に、ちょっと不安だったが・・・。

公園にはパイプ椅子が幾つも並べられていた。椅子に座ってじっと待つ。だんだん空が薄暗くなってくる。しかしあいにく雲が多い。これでは充分にその神秘を確かめられないではないか!それでも、12時23分になり、その神秘が頂点に達すると、拍手が沸き起こった。帰国2日前にして、ラッキーだったなぁ。

夜は、花子や花子の友達、そしてアサミヤとで有名店「レ・ブション(Les Bouchons)」で食事。ええ、一応、僕の帰国直前ということで、豪華に食事をしようと企ててくれたのであった。いはやは!!フランスに来て大好きになった鴨肉のコンフィ(脂肪で煮たもの)。今日も最高であった。思えば、フランスに来てから好きになった食べ物が幾つもある。鴨肉をはじめ、子羊もそうだし、青カビのチーズ、山羊のチーズ、生牡蠣も、最初は苦手だったのに今じゃ思い出すだけでヨダレが出る。

それにしても、2日後には帰国だなんて!帰りたくなったり、帰りたくなくなったりと、僕の心は1秒毎に揺れ動きせわしない。

8月12日(木)。渡仏前、母に「パリで一番美味しいパン屋」の新聞記事を渡された。パリのバゲット・コンクールで1等賞を取った店の記事だった。優勝店は、1年間大統領官邸にバゲットを納めることになるので、大変な注目を集める栄誉ある賞だ。是非、そのパンを食べてみたいと、家族が来た時に行ってみようということになった。新聞記事を持参していたのだが、住所などが記載されていない為、行き方が分からない。ホテルのフロントで、新聞記事の内容を説明すると、あれこれ電話をして住所を突き止めてくれ、更に行き方も丁寧に教えてくれた。これがパリの外れにあり、しかも地下鉄を降りてからも15分くらい歩くような場所にあった。やっとの思いで辿り着いたと思ったら、「定休日」だった。仕方なく、向かいのパン屋のパンを買った。

今日はその無念を晴らすべく、先日再会した大学の先輩とポン子を誘って再チャレンジ!そしてやっとの思いで辿り着いた僕たちの目に飛び込んできたのは、なんと今度は「夏休み」の文字。仕方なく向かいのカフェでランチ。

《後日談》
二度も味わう苦しみ!こうなると、何としてでもそこのパンを食べてみたくなるというもの。その3年後、パリに遊びに行った際、三度目の正直!!!ということで、当時パリに住んでいたポン子と再び誘って出向いた。そしてやっとの思いで辿り着いた僕たちの目に飛び込んできたのは、冗談のようだが「定休日」・・・。家族とのパリ観光と同じ曜日に出向いてしまったらしい。僕はこのパン屋と、とことん縁がないようだ。

さて、今夜は明日帰国する僕にとってフランス最後の夜だ。その記念すべき夜に何を食べたいか?アサミヤとポン子に問われ、僕は迷いもなくアルザス料理と答えた。僕のこの留学生活はアルザス地方のストラスブールから始まったのだ。大好きな街の大好きな料理。アルザスで始まり、アルザスで終わりたい。「地球の歩き方」で調べてみたら、シャンゼリゼ通りに一軒あった。・・・シャンゼリゼのレストランと言えば、観光客向けで高くてマズイ。でもそこしか見付からなかったので、仕方なしに、期待しつつシャンゼリゼ通り沿いにある「メゾン・ダルザス(Maison d'Alsace)」を予約した。

しかしやはり想像通り、高い割りにサービスも良くないし、料理もイマイチだ。アルザス料理はアルザスで食べるに限る!そう思いつつも、最後の夜をトーク!トーク!!トーク!!!で満喫した。華麗なる最後の夜を飾りたかったが、支払いの後、36フラン(約750円)のお釣りが待てど暮らせど戻ってこず、担当のウェイターをとっ捉まえて催促すると、「あ〜、あれチップだと思ってた」ですと。そのサービスにかい?冗談はよし子さん!きっちり36フランを受け取って店を後にしたのであった。

最終話につづく

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