第87話
パリにホッとしイラつく

8月8日(日)。8日間の北欧旅行を終え、パリに戻って来た。あれだけ北欧に感激しっぱなしの日々で、「とにもかくにも北欧が大好き!」という思いが一層強くなったのに、フランスに着いた瞬間なぜかホッとした。やはり、その国の言葉が分かる、というのはとても大きい。北欧は英語こそよく通じて、言葉に困ることはほぼ皆無と言っていいくらいだが、現地の言葉が分からないというのは、ある意味でストレスになる。その国の人にも申し訳ない気がしてくるのだ。パリの空港は汚いし、市内に向かう電車の中も、窓から眺める風景も北欧とは比べ物にならないくらい、綺麗とは言えないのに、なぜかホッとしている僕がいた。

さて、今日からまた宿なしの僕。本来ならば、パリにアパートを借りると言っていたはるをのところに泊めてもらうはずだったのだが、事情により没になっていたので、荷物を預けている花子のアパートに電話をしてみた。すると、花子の友達が出て、パリでホームステイを開始しているはずのアサミヤは、色々あって今国際学生都市のデンマーク館に住んでいると聞きびっくり仰天!(アサミヤは今月から、ソルボンヌの夏期講座に出ていた)

早速、国際学生都市(通称シテ)へ。デンマーク館は僕が住んでいたノルウェー館の斜め向かいに建っている。部屋番号が分からないので、デンマーク館に入ってすぐのところにある電話から、適当に部屋番号を押して探し出そうとしたら、なんと一発目でいきなりアサミヤが出たので、これまたびっくり仰天!今日からしばらくアサミヤの部屋に泊めてもらうことにした。

夕飯に共同キッチンで餅と赤飯を食べていたら、「これ何?」と興味深そうな顔でヨーロッパの学生から訊かれた。

8月9日(月)。午前中授業に出かけたアサミヤの帰りを待って、午後はシャンゼリゼ通りの映画館に行き、鑑賞券を買おうと「Deux tickets, s'il vous plait.(チケット2枚お願いします)」と言うと、いきなり「Do you speak English?(英語話せますか?)」と訊かれてしまった。出た出た・・・またこの質問。僕の答えを待たず、その人は英語で、今メンテナンス中の為、上映をしていないと言った。僕はわざと、フランス語で聞き返した。フランス語で訊いているのだから、フランス語で答えるべし、というのが僕の持論。しかし再度英語で説明をされる。僕は先ほどから、一言も英語を口にしていないどころか、ずっとフランス語で通しているのだ。カチンと来た僕は、
「Je parle francais !!(フランス語話せます!!)」
と啖呵(?)を切った。すると、フランス人にしては珍しく慌てて謝ってきた。

しかし何も怒ることないだろうに・・・とも思うのだが、どうも、パリという観光地では、「外国人観光客=フランス語を解さない」という意識が働くようで、フランス語で話しかけても英語で返されることが多い。地方都市では滅多にないことだが。家族がパリにやって来た時に泊まったホテルでも、フロントの人と毎日顔を合わせ、夜は何十分もフランス語で話し込んだりしていたのに、毎朝、そのフロントマンは、つい英語を口走ってしまうのだった。その都度「フランス語話せますよ」と僕が言うと、「ああ、そうでしたね、すみません」と言ってフランス語に変わるのだったが、最後の方では、もう僕も諦め、フロントマンの英語を止めずに聞いていた。すると、もうひとりの別のフロントマンが慌てて彼に「彼はフランス語話せるよ!」と小さく呟いてくれた。

さて話は戻り、映画を諦め買い物をすることにした。オペラ通りの免税店で香水を買った。空港の免税店よりも安かった。

夜は、大学の先輩がパリに来ているということでマレ地区で再会。久しぶりに会って喋り、愉快な夜だった。

第88話につづく

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