第73話
ついに爆発!

4月30日(金)。午前中は市役所の見学。通常、中は観られないのだそうで、今回は特別ということで入れたのだが、これがヴェルサイユ宮殿に負けず劣らず豪勢。本当にラッキーだと思った。今日は日本語ペラペラのフランス人ガイドさんが案内してくれた。バスの中で話されるフランス語は、ブザンソン在住の日本語教師Aさんが通訳していたのだが、このオバサン、とってもおかしな日本語を話す。日本語教師をしていると言うが、日本人というだけで、教える資格はあるのだろうか?と疑ってしまう。アクセントも訛っていてめちゃくちゃ。そして、バスの中では、日本語ペラペラのフランス人ガイドさんに訳の指摘をされるというハプニングまであった。

昼食は、セーヌ河のクルージングにて。我々はG市メンバーが座っている各テーブルの空いているところに、バラバラになって座った。料理も美味しかったし、景色も綺麗。しかし、僕ではなく、他のボランティア・メンバーのひとりが、G市メンバーから嫌味を言われたと言って、気分を害していた。
「ホント、学生の皆さんはよく食べるわね〜」
言い方がとてつもなく“イヤミ”だったらしい。この手のイヤミは、次第に増えてきていた。どうやら、僕たちは「ボランティア」として参加しているということは伝えられておらず、G市メンバーが払っている費用の中から、通訳料を貰い、そして大して仕事もせず、なのに飲み食いだけは(G市メンバーのお金で)一丁前にやりやがって、と思われていた。僕たちは、G市の日仏協会の会長さんから参加者メンバーに、何の説明もされていないことに驚いた。お金など一銭も貰っていないどころか、学校はテスト期間だというのに、特別許可を貰って休み、ボランティアとしてお手伝いしているのだ。我々はG市の日仏協会のスタッフでもなければ、ブザンソンの仏日協会のスタッフでもない。スタッフたちの手が回らないところをサポートしていたのだ。それなのに、たった一言の説明がないだけで、なぜかぎくしゃくしていた。

午後は自由行動の時間が少しだけあったので、僕たちはオペラ通りにある日本食品店「京子食品」に行く計画を立てていた。そこで納豆を買いたい!納豆を思う存分食べたい!と言って盛り上がっていた。G市メンバーの、親しみやすいダンディーなUさんに「夜、もし良かったら飲みませんか?今日の午後、日本食品店でいろいろ買ってきますから」とお誘いしたところ、丁重に断られたのだが、「これで好きなもの買って下さい」と、なんと500フラン(約1万円)もくれた。

僕たちは、僅かだけども貴重な自由時間に賭けていた。この時間だけは、ボランティアとしてG市メンバーに同行をしなくてもいいと言われていたのだ(実際、G市メンバーたちも自由行動をするのでバラバラになる)。しかし、時間が押していた為、京子食品まで行って戻って来るのに時間がギリギリだったが、何とかなると思っていた。デパートの何階に何が売っているのか、というのを大まかに説明し、両替したい人を両替所まで連れて行った後、各々の自由行動となった。僕たちは大急ぎで地下鉄に乗りオペラ通りに向かった。皆目の色を変えてカゴの中に日本食を詰め込んだ。勿論納豆が中心。Uさんから頂いた500フランがあったので、値段など何も気にしなかった。足りると思っていたのだ。ところが、会計をしたら957フラン(約2万円)!

時計を見ると、既に集合時間に遅れそうな時間になっていた。僕たちはとにかく大急ぎで走り、地下鉄に乗り、集合場所まで向かった。そして、10分遅れで到着したその場所で待ち構えていたのは、カンカンに怒っているG市メンバーの2名だった。30代後半と思われる若いお母さん。何かとイヤミっぽい、身勝手なことを平気で言うメンバーで、僕たちも苦手としていた。
「遅れまして、すみません!」
遅れてしまい、悪いのは100%僕たちなので平謝りするしかなかった。
「ちょっと!何やってるのよ!!」
「自由行動に、なんであなたたちがいなくなるのよ!」
次は地下鉄で夕食処へ向かうことになっていたので、僕たちはとにかく小さくなりながら、地下鉄に誘導した。パリ市内で地下鉄を使う際は、僕たちがいつも人数分の切符を買い、ひとりひとりに手渡していた。その都度「ありがとう」と言ってくれる人もいれば、「あんたたちがやるのが当たり前」と言わんばかりに何も言わずに受け取る人もいたが、今回、カンカンになっているメンバーは睨みつけながら、勿論「ありがとう」など言うはずもなく、「フン!」と言いながら切符を受け取った。

電車の中で、僕たちは限界に達していた。確かに感じが悪いのは一部のメンバーだけだったが、ボランティアがいないと何も出来ないようなフリをして、とにかく感じの悪い態度をとり続けられると、こちらとしても虚しくてたまらなくなる。あの切符の受け取り方はないのではないか。確かに集合時間に遅れてしまったことは僕たちのマイナス点だった。が、何もそこまで不機嫌を露わにする必要はないではないか。散々である。僕は皆に提案した。
「言いに行こうよ。確かに遅れたことは悪い。でも、自由行動の時間にいなくなったからと言って(許可を貰ってるのに)、子供じゃないのに、なんで一緒について行かなきゃならないの?両替だってちゃんと案内して、トイレの場所だって案内してから行ったのに」
「うん、言いに行こう!」
地下鉄を下りたら、怒ってるメンバーに、自由時間の間に僕たちがいなかったことが、何でそんなに困ることなのか、訊きに行こうということになった。

しかし、地下鉄を下りて、レストランまでの道中、僕が「言いに行こうよ!」と言っても、皆さっきまでの態度とは違い、誰も言いに行こうとしない。怖気づいたようだった。仕方がないので、僕が先陣を切った。あのとてつもなく感じの悪い2人の後ろに声を掛けた。
「あの、すみません!」

第74話につづく

フランス留学記目次