第67話
ひとり去る

4月8日(木)。ぐーたらな朝。ポン子共々、勿論早く起きられるはずがない。イワデレは僕たちを残して、早く起き、朝の町を散歩しに行ったらしい。朝市に行くと、いろんな人に声を掛けられて恐かった、なんてイワデレらしくないことを口にしていた。さすがマルセイユ。

今日はマルセイユの市内観光。昼食の前に、僕はふとした思い付きでピアスを開けることに!アクセサリー屋で、左耳たぶにひとつ穴を開けた。フランス人は男性でもピアスを開けている人が多いので、僕も感化されてしまったようだ。

昼食にケバブを食べ、ノートルダムへ。坂道を登るのが(若者のくせに)大変だったけど、思いがけず海が見えて感激。なるほど、皆が「マルセイユは綺麗」と言っていた理由がやっと分かった。下りは(若いくせに)徒歩ではなくバスを使うことに。バスに乗る際、運転手が口にした運賃を何度聞き返しても理解出来ない。我々3人の6つの耳を駆使しても「???」。これがウワサの南仏なまり?!異文化に触れたようで嬉しくなる。海の側にあるスペイン系の店でサングリアを飲みながら一休み。マルセイユから船で、美しの小さな島に行ってみようと港に向かうも、あいにく今日は無理。行く途中で道を訊いたおばさんも、これまた南独特のなまりで話すので、僕は嬉しさのあまり笑ってしまいそうになった。・・・決してブザンソンのフランス語が「標準語」ではないのだが、南は特に独特なアクセントで話すのだ。それが僕には「わざとらしく」も「可愛らしく」も聞こえる。

若人のくせに疲れ果てた僕たちはホテルに一旦戻り、部屋でウダウダ。そしてイワデレはアンジェへと帰って行った。イワデレと始まったこの南仏旅行も1週間が経とうとしている。早いなぁ。残された僕とポン子は、港付近のレストラン街へ。美味しそうなレストランを振り切り、僕たちが目指したのは魚介類の店!生ガキが食べたかったのだ。しかし、魚介類のコース99フラン(約2千円)もしたのに、量が少なく、育ち盛り(?)の僕には全く足りず。というわけで、その店を出て、先程振り切ったレストランで今度はラザニアを食す。やっと若者らしくなった(腹ばかりは)。その後、恒例のおやじバーへ。これで3夜連続である。ウェイターが、
「あれ、もうひとりは?」
さすがに3夜連続で通っているので覚えていたらしい。昼は元気がなくて3人とも無口に近かったというのに、夜になると元気になる我ら。ポン子と2人ですこぶる盛り上がる。特に、大学入学当時のことを振り返り、笑いが絶えなかった。

4月9日(金)。勿論、遅起き。ホテルのチェックアウト時、あの天使のオバサンに会いたかったのに、会えなかった。悲しい・・・。マルセイユに別れを告げ、アヴィニョンへ。マルセイユとは全く違い、とっても居心地のいい町。僕は2年ぶりだ。有名なサン・ベネゼ橋(17世紀に工事が中断され、途中で終わっている未完成の橋)を見に行く。エスキモーの人が通りかかり、橋をバックに写真を撮ってもらう。町をぶらぶらしていたら、家の中から窓越しに外を見ているシェパード犬を発見!もちろん写真をパチリ。続いて、店の前で寝そべっているシェパードも発見!アングルを変えて何枚も撮る。

夕飯の後はバー探し。マルセイユではお目にかかれなかった、普通の、若者が沢山いるバーを発見。近くにいたフランス人と少し会話する。「何処に住んでるの?」と訊かれ、ブザンソンと答えたら「ブザンソン?何処それ?」ときた。思わず飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「ディジョン知ってる?」
「ああ、ディジョンなら知ってるよ」
「パリからTGVで行ったら、ディジョンの先」
「へぇ。ブザンソン・・・知らない」
フランス人のクセにブザンソンを知らないなんて!!ちなみに、ポン子の知り合いのフランス人には、「ブザンソンは知ってるけどディジョンは知らない」と言った人がいるとか。こちらも更にビックリ。

第68話につづく

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