第64話
香水の町グラースから怪しい町マルセイユへ

4月6日(火)。ニースからバスに1時間揺られて、グラースへ。山へ山へとバスは上って行くので、ホントにグラースに着くのだろうか?と、ちょっと不安になる僕たち。しかし心配無用。着かないわけがない。香水大好き人間ポン子が、何処を差し置いても行きたがっていたグラースは香水で有名な町。観光客が工場で自分好みのオリジナル香水を作ることも出来るということで、誰よりもポン子が張り切っていた。

“香水の町”という響きから想像するに、さぞや美しい南仏の町であろうと勝手に思っていた我らであるが、バスが到着するや否や、ちょっと肩透かしをくらった。ニースやカンヌなどの華々しさは全くなく、アラブ人が多く、ちょっぴり危険な香り。そんな中、向こう側から日本人の女の子3人組が歩いて来るのが見えた。あれ?・・・おや?・・・よく見ると、同じ大学でアンジェに留学しているYちゃんではないか!こんなところで偶然に会うとは、一同でびっくり仰天。

町をそぞろ歩き、観光客向けのレストランで出された不味い料理に気を悪くしつつ、さて最大の目的である香水作りに行こうとしたが、道を間違えたのか見付けられず。夕方にはバスでマルセイユに移動することになっていたこともあり、諦めることに。意外に諦めのいいポン子。尾を引かず諦めが早いのは犬も同じだ、なんて思っていたら、道路を渡った向こう側にすこぶる可愛いゴールデン・レトリバー発見!すかさず道路を渡り、犬に接触。でもって記念写真を1枚。この頃から、僕はフランスで可愛い犬を見かける度に、飼い主に「かぅわいい!!触っていいですか?ついでに写真も撮っていいですか?」と相手に有無を言わせぬ勢いで訊ねるのが癖になっていたのであった。

まさかそれから3年後、グラースを舞台にしたフランスの連続ドラマ「美しき花の香り」にポン子と共にハマりにハマり、再訪することになるとは夢にも思っていなかった。同じグラース、同じ街並みでも、ドラマの舞台となったところを巡った時は大興奮で、グラースの魅力を再発見したのであった。

さて話を1999年4月に戻す。グラースから一旦ニースに戻り荷物を引き取って、いざマルセイユへ出発!今度は電車での移動で、マルセイユに近付くにつれて、窓から見える町並みの風景がどんどん変わってゆく。家の窓からぶら下がる洗濯物が南仏独特で、これもまた風情を感じさせるではないか。イワデレとポン子はマルセイユが舞台になった映画「TAXI」のことで盛り上がっている。僕は観ていないので話に入り込む隙がない。「え、何、“TAXI”観てないの?」とでも言わんばかりに、得意気な顔で僕を一瞥する2人。映画で観たことのある町に行くというのは、なかなか楽しいもの・・・なのだ。それに、マルセイユに行ったことのある友人たちの話によれば「すっごく綺麗なところ」らしく、僕たちはかなり期待をしていた。

夕方、駅に着いた途端、2人は大はしゃぎ。どうやら映画に出てくるところをいきなり発見したらしい。しかし、そんな大はしゃぎもすぐに立ち消え。予約しているホテルに向かおうと、駅を出た途端、それまでフランスでは見たこともない風景が目の前にあった。
「柄悪い・・・」
美しいとは決して言えず、なんだか危険な雰囲気。しかもアラブ人しかいない。ガイドブックの地図には「アラブ人街」なるものが記載されているが、そんな界隈に行かずとも、充分アラブ人街だ。それに、港界隈にはレストランが多く存在するが、危険な区域なので気を付けるようにと書いてある。駅周辺でこれだけ危険な香りがするのだから、港界隈は一体どれだけ危険なんだ?!

ホテルは駅から歩いて10分程のところにあるので、僕たちは早足でホテルに向かった。やっぱり柄の悪い町・・・ブザンソンの郊外にもアラブ人が多く住み、治安悪化の一途を辿っている区域があるが、そんなもの比にならない。早くホテルに着いて落ち着きたいというのに、道を一本間違えてしまった。早く早くと気持ちばかりが焦る。そして目当てのホテルの看板を見つけた時には、一目散に走って息せき切ってドアを開けた。

ホッと胸をなで下ろし、ドアを開けると真正面のフロントに、怪しく微笑むオバサンが座っていた。
「いらっしゃ〜い!」

第65話につづく

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