第33話
クリスマス休暇に向かって

12月14日(月)。年内の授業は今週一杯で終わり、クリスマス休暇に入る。音声学の授業では、なんと宿題が出た。雑誌に載っている面白いフランス語表現(音としての言葉遊び)の見出しを集めるというもの。集めてただ羅列するだけではない。それがどういう意味なのか、なぜそれが面白いのかという説明も付けなければならない。「うわっ・・・こりゃ大変だ」と憂鬱になった。アキさんは「ファブリスに手伝ってもらお」と余裕顔。僕はふとフィリップの顔が浮かんだ。ロータリーに提出した報告書の添削をしてくれた、フランス語教師育成コースにいるフランス人だ。授業の後、廊下でばったり会ったので、それを告げると、いたずらな顔をして「またぁ〜?」と言われてしまった。

12月15日(火)。相変わらず朝が辛い。時計を見ると、既に遅刻だ。渋々起きて、学校に向かっている途中、ハルザキさんが向こうから歩いて来るのが見えた。1時間目の授業はハルザキさんと同じクラスなので、もしや・・・と思ったら、予想通り休講だと言う。せっかく起きたのに!
「コウ君来てなかったから、まだ家にいるだろうと思って、今からコウ君ちに行こうと思ってたんだ」
おやまぁ。僕はそのまま引き返し、ハルザキさんと家でお茶をした。

「現代フランス語」の授業を担当する先生は、とてつもなくつまらない授業をすることで評判。皆が恐れおののいていた。僕も例に漏れず、この授業が苦手だった。先週のテストが返ってきたが、点数は20点満点中8点。更に点数の脇には「不充分」と書かれていた。12点が合格点なので赤点である。さすがにヘコむ。

台湾人のアレックスは明日から旅行に出るとのことで、今日が年内最後だった。別れ際、いつものように「A demain!」(また明日!)と言おうとしたが、次に会うのは明日ではなかったと気付き、お互い“A l'annee prochaine!”(また来年!)と言って笑いながら別れた。「また明日!」「また来週!」という決まり文句ではなく、既に「来年」ということが、不思議で可笑しかった。

専門色が強く、更に理系色が絡み、何が何やらさっぱり理解出来ない「一般言語学」とは別に「対照言語学」という選択科目があった。これはこれで、逆に物足りない授業だった。先生の話すフランス語アクセントに妙ななまりがあり、鼻母音(フランス語特有の、鼻にかけて発音する母音)の発音からしてこの辺の出身ではなさそうだ、どこの出身だろう・・・と思っていたところ、実はユーゴスラビア出身の先生だった。フランスに来て何十年も経つので、フランス語は母語のようなものらしい。この授業には数ヶ国から来ている学生が集まっていたので、それぞれの母語を照らし合わせて言語の成り立ちの違いを学んだ。お遊びのような授業で僕はあまり真剣になれなかったが、「一般言語学」のような恐ろしさとは真逆だけに、随分落ち着いていられた。

12月16日(水)も寝坊して、25分遅れで「対照言語学」のクラスに行くと、なんとテストが行われていた。席に着くとなぜか先生がお菓子を持って来てくれた。
「なぜテストの時にお菓子を?!でも嬉しい!ちょうど腹減ってたし」
僕はそのお菓子を一口で平らげてしまった。あーおいしかった。はて、皆何やら紙に書いているけれど、何のテストざんしょ?おやおや、周囲をよく見ると皆お菓子を少しずつ大切そうに食べている。なんと、そのお菓子を良く味わい、舌触りやら味やら、はたまた後味やら感触やらを事細かにフランス語で記す、というテストだったのだ。

夜は、CLAとPop Hall連動のクリスマス・パーティーがあった。さぞかし混むだろうと思ったが、意外と少なかった。フランス人学生と出会い、色々とフランス語表現を教えてもらった。英語教師になる為の研修を終えたと言い、楽しそうに教えてくれた。

第34話につづく

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