第32話
日本ツアー

12月12日(土)。フランスに来てちょうど100日目のこの日は、ポン子とパリで「現実逃避・日本ツアー in Paris」を決行。日帰りのパリ観光、と言っても、観光名所を巡る1日ではなく、地方都市にはない日本食材店、日本の書店、日本食レストランなど、パリにある日本の店巡りである。この計画はほんの数日前に決定し、我々は相当な意気込みでこの日を迎えた。

朝一のTGVでパリに向かう。パリに詳しくない僕たちは、待ち合わせ場所をどこにするのか逡巡した結果、なんとシャンゼリゼ通りの凱旋門前に相成った。ここならば慌てることなく落ち合えるだろう。凱旋門に向かって右側のところで、我々はまた劇的な再会を果たす。ポン子との再会場面はいつも笑える。

最終電車でその日のうちに帰ることになっていたが、その終電が7時18分。9時とか10時位に発つ電車がないのか調べたのだが、これしかない。朝一で来ても、パリには12時間も居られない。僕たちはまずカフェに入ってひとまず談笑。そして、ルーブル美術館近くにある、僕オススメの日本食レストラン「体心」に行く。僕にとっては1年半振り2度目の「体心」だ。外国の日本食レストランは高い割にあまり美味しくないのだが、ここは値段と味が釣り合っている(あれから数年が経ち、閉店したというウワサを聞いたが…)。メニューを見て、僕たちが真っ先に目が行ったのは「イカ納豆」。大興奮!唐揚げ定食も美味しかった。ニッポンの味だ。しかし・・・高い。美味しいけれど、高い。でも大満足してランチを終えた。支払いの際、カルト・ブルー(フランスの銀行が発行するクレジット・カード)を出すと、とても感じのいい店員が
「ああ!フランスにお住まいなんですね。是非またお越し下さい」
と言って、名刺をくれた。

このレストランはホテルの中に入っており、日本人が多く利用するらしく、僕たちはロビーに置いてある日本人向けの新聞やらチラシやらを眺めていた。訊きたいことがあり、ホテルの人を探そうとしたところ、ちょうどレストランからアラブ系のフランス人が出てきたので、僕はなぜか勝手に彼は日本語を話せるホテルマンだと思い込み、日本語で話しかけた。しかし、日本語は全く解せないらしく、
「英語話せますか?」
と訊かれた。その瞬間、ポン子は側で大笑い。英語を話せるかと訊かれた時の、僕の表情の変わり様が凄まじかったと言う。僕は曇った顔つきで「フランス語話せます」と答え、改めて質問をすると、彼は、
「なぁ〜んだ、フランス語話せるんじゃないですか!」
と安堵した顔で僕の質問に答えてくれた。彼と別れてからも、ポン子は笑い続けていた。
「あなたの顔の変わり様がスゴイんだもの!」
パリのような観光地だと、フランス語で話しても英語で返されることも多く、僕は辟易していたのだ。

パリの日本人街と言えば、オペラ座界隈。オペラ通りには日本食レストランは勿論のこと、日本食材店「京子食品」、日本書籍専門店「ジュンク書店」「文化堂(現在はブックオフになったらしい)」、はたまた日本の旅行代理店「H.I.S」など、日系の店や企業が建ち並んでいる。僕たちは「体心」を出てから、歩いてオペラ通りに向かった。その途中、「とらや」を覗き(高さにおののき)、念願の「京子食品」へ!日本人は勿論のこと、フランス人客もいて、土曜日だけあって混んでいた。購入必須食材第1位は納豆。どれもこれも日本で買うより2〜3倍はするので、慎重になりながら買い物カゴに入れる。納豆、たくあん、味噌汁(レトルト)、カレーのルウ、更にはあんぱん、ポカリスエット、爽健美茶まで手が伸び、200フラン(約4,500円)は軽く超していた。

フランスにはポカリスエットのような爽やかな飲料水がないので、喉が渇いた僕たちは、買ってすぐに飲み干した。はぁ・・・はかない夢。そして「ジュンク書店」に入り、無我夢中で立ち読み。雑誌も小説も、高くて目が飛び出る。1冊くらい買おうかと思っていたのだが、これまた定価の3倍はするので諦めた。

気が付けば、もう5時になっていた。あと少しでお別れだ。このきらびやかな都会から田舎町へと帰るのだ。再びシャンゼリゼに戻り、Quick(ファーストフード店)に入り、最後の談笑。6時半過ぎ、外に出ると、シャンゼリゼ通りを彩るイルミネーションがとても綺麗!クリスマスが近付いているのだ。僕とポン子は、地下鉄で別れた。

笑いまくり、束の間の日本を満喫し、日本食を抱え、TGVに乗り込むと、僕は口を開けてグーグー寝た。

第33話につづく

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