第26話
飲兵衛

11月18日(水)。サトルとコンサートに出かけた。コンサート前に、ピザ屋で夕飯を摂った。この店のタダ券を僕が持っていたからだ。食べ終えて、タダ券をテーブルに置き、店を出ると、店員が走って追いかけてきた。なぜか支払いを要求してくる。
「無料チケットをテーブルに置きましたけど」
「あのチケットは、ピザを2枚注文すると1枚無料になるというもので、全額無料ではないんですよ」
ゲッ!!!大して美味しいピザでもなかったのに・・・。チケットをよく読まず、勘違いしていた僕がイケナイのだが。

ブザンソンに来た当初、僕ひとり、お昼時にレストランに入り、ランチセットを注文した際、飲み物は頼まなかった。それなのに、カラフに入った水が運ばれてきた。ヨーロッパでは水は有料と信じて疑わなかった僕は驚き、去って行く店員に向かって大声で叫んだ。
「スミマセーン!!!水は頼んでないんですけど!!!」
周囲の客が一斉に僕を見る。店員が戻ってくる。
「なんでしょう?」
「水、頼んでないですよ」
「ああ、水は無料ですよ」
恥ずかしくて穴を掘って潜りたい気分だった。ミネラル・ウォーターでなければ、ヨーロッパでも水は無料だった・・・初めて知った。そう、人は失敗から学んでいくのである。

郊外にある大学のキャンパスで行われたコンサートは、実に奇妙なものだった。コンピューターのような、楽器とは思えないような機械を駆使し、メロディーともいえない音をただ気まぐれに奏でている感じ。勿論、譜面はない。終演後、メンバーに「同じ演奏を二度出来ますか?」と訊ねると、「出来ない」とあっさり答えられた。

このコンサートにはファブリスと彼女も来ていて、バッタリ会った。彼は僕の家の近所に住んでいるので、彼の車で中心街に戻り、僕たちは4人で飲んだ。

11月20日(金)。あと10日で11月も終わり。早過ぎて焦るばかりだ。

水道(シンク)が詰まって、水が流れなくなってしまった。友達に聞くところによると、詰まり物を流す液体がスーパーに売っているとのことで、早速実行。やっと抜けたが、まだまだ詰まる。一瓶全部使ったのだが、どうもやり方を間違えているらしい。明日再挑戦だ。

夜、Pop Hall(町で一番大きいバー)に行くと、ファブリス、ハルザキさん、レイさんが居て、他に知らない2人が同席していた。1人はフランス人で、もう1人は東洋系の顔をしていたので、何処の国の人だろうと思っていたら、日本語で話しかけられた。時々訛るので、方言が混じっているのかなと思っていたのだが、なんと、彼は韓国人だった。ソウル大学(日本でいう東大)出身で、学生時代、東大に留学していたらしいが、あまりにも日本語が完璧だったので、僕はてっきり日本人だとばかり思っていた。本当に驚きの出会いであった。

11月21日(土)。昼に起き、食料を求めにスーパーに行く。詰まり物を流す液体も買い、再度挑戦。今度は説明通りに忠実にやってみる。ボトルに入った液体を全部使い、勢い良く水で流した。すると、これまでの詰まりが嘘のように流れが良くなった!あまりにも快感で、病み付きになりそう・・・。

夕方、スペイン人のステファニーに電話をし、7時に待ち合わせ。イギリス人のヘレンも合流して、サトルと行った大して美味しくもないピザ屋にまた行き、パスタを注文するもやはり失敗。もう繰り返さないぞ!その後、Pop Hall へ行って酒飲み開始。このバーに行くと、必ずCLAの学生がいるもので、今日もアキさん、ハルザキさんの他に、台湾人、イギリス人、それからフランス人学生2人も混じって飲んだ。偶然にも皆、英語とフランス語を話せたので、2ヶ国語での会話となったが、どうも以前より英語がすんなり口から出てこなくなった。

この当時、机上での勉強よりも、酒場での口頭勉強に力を入れていた僕。ポン子からは「アル中のタカアシ君」(フランス語ではhを発音しない)とからかわれていた。

第27話につづく

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