第25話 貧乏人とブルジョア |
リンゴとポン子がブザンソンにやって来た翌日は、昼から始動。モノプリ(スーパーマーケット)で食料を買い、家に戻って来るとリンゴがポツリ。 「ねぇ、サントル(中心街)ってどこ?」 僕とポン子は顔を見合わせた。 「どこって・・・今、歩いてきたじゃん!というか、ここも既にサントルなんだけど」 「えっ・・・そうなの?!」 「ちょっと〜、ブザンソンをバカにして〜!」 リンゴが留学しているレンヌはブザンソンよりも少しばかり大きい。ポン子のいるポワチエはブザンソンと同規模の町なので、僕とポン子は2人してリンゴの発言に驚いた。この先、“レンヌ vs ブザンソン&ポワチエ”は続くことになる。 日本食を作ってあげる!と大張り切りだった料理好きのリンゴは、いそいそと料理を開始。なぜかお昼は日本食ではなくパスタだった。3時過ぎに、サトルが遊びに来た。普段、僕とポン子が2人でリンゴをからかっているので、ここぞとばかりにサトルに味方を求めた。 「この2人ったら、いつもあたしをバカにするの!」 「どうやって?」 「あたしが貧困街生まれの貧乏人で、この2人は大金持ち(ブルジョア)っていう設定なの!それからね・・・」 僕たち2人のヒドさと、自分の哀れっぷりを懸命に訴えた後、サトルはあっさりと言いのけた。 「ふ〜ん。ほっとけば?」 僕とポン子は大笑いし、リンゴは一人しょげていた。 4時過ぎ、僕たちは4人で城塞に行った。家から歩いて行けるくらい近くにあるのだが、僕は行ったことがなかった。辿り着くまでの道中がとても美しく、城塞から見下ろす町の眺めも素晴らしくて感激した。リンゴとポン子も、盛んに「ブザンソンって可愛くて綺麗な町!冬に来たら最高に美しいだろうねぇ」と言っていた。僕とポン子が“死んだフリ”をした設定で写真を撮り合ってふざけている頃、リンゴとサトルはどんどん先に進んで行き、2人並んで歩いている姿がまるで夫婦のように見え、すかさず後ろから写真をパチリ。 ブザンソンってこんなにいいところだったんだー、と僕までも感激した後は、町中に戻り、ワインを買って帰宅。夕飯もリンゴの手料理。オムレツ、魚、ハンバーグ、そして白いご飯。僕はいつもモノプリで米を買っていた。イタリア米が粘りっ気のある日本米に近いとよく言われていたが、何種類か試した結果、青い箱に入っているフランス産の米が日本米にかなり近く、ずっとそれを食していた。リンゴとポン子にも紹介すると、リンゴは「レンヌにもあるかしら?モノプリに行けばあるよね。探しみるわ」と言っていた。後日、レンヌのモノプリに行って青い箱を探したものの見付からず、必死に他のスーパーでも探しやっと見つけたという。 「ブザンソンにあってレンヌにないはずがないわ!」 と、ポン子に言っていたらしい。田舎好きのリンゴが、都会好きの僕とポン子よりも大きな町に住んでいるというのもなかなかの矛盾であった・・・。 夕飯後、家でのんびりと談笑しながら過ごした後、11時頃バーに繰り出した。日付が変わってから帰宅し、「まだまだこれから!!!」のリンゴとサトルは早速オネム。夜中に目がランランとする夜行性ポン子と僕は起きていたが、なぜか交代交代で眠くなる。この貴重な時間が勿体無くて、寝たくない一心なのに。眠気防止にとてつもなく濃いコーヒーを作り、ポン子に出す。なのに、僕は飲まず(鬼!)。 次の日、午前中のうちに2人はブザンソンを去った。駅までの道中、リンゴがポン子に、 「電車、隣の席だったらいいね」と言うと、すかさずポン子は、 「うん・・・あ、でもほら、私1等車だから。あなた2等車でしょ?」と返した。 隙あらば、“貧困街生まれ vs ブルジョア育ち”ネタが出る。僕は腹を抱えて笑い、リンゴは「もう、あんたたちー!」とプンプンしていた。 異国暮らしにおとずれる、とてつもなく楽しい密度の濃い非日常。また翌日からの“現実”を思うと憂鬱になってしまう。2人は「冬のブザンソンは美しいだろうなぁ」と言っていたが、どんよりとした秋の天気が、僕の心を塞ぎこませるようだった。とてつもなく楽しい時間の後は、美しいであろうブザンソンの冬に向かって、憂鬱が溢れ出そうだった。 第26話につづく |