第10話
ブザンソンの家

10月3日(土)。ブザンソンに着いた。これから夏まで生活する町。駅でクロード(僕の保証人となるロータリー会員)と初対面。細身で54歳、会社経営をしている紳士だ。この地域に住む人にしては、かなり早口で話す(フランシュ・コンテ地方は、ゆっくり話す人が多い)。今日から2泊、彼の家に泊まることになっているが、まずは僕が住むことになるアパートに行って荷物を置くことに。部屋は駅から歩いて20分程の、中心街の中にある。車の中から見る限り、ストラスブールに比べるとやはり小振りな町だ。ドイツっぽいストラスブールとは違い、スイスとの国境に近いせいもあって、ブザンソンはどことなくスイスっぽい。

アパートの前に車が停まった瞬間、僕は驚いてしまった。古くて「エッ?ここ?!」と心が引いてしまったのだ。ところが、中に入ってビックリ!内装されたばかりで、外観とは裏腹に清潔で近代的!しかも広い!入ってすぐの右手に寝室、左手にトイレとシャワー。まっすぐ進むと、20畳ほどのダイニング・ルーム。しかもキッチンがバーのようになっていて洒落ている。食器洗い機付きだ。ダイニング・ルームの奥にもう一部屋寝室があり、覗くと、玄関すぐの寝室よりも広く、ここにもトイレとシャワーが付いている。まるでホテルのよう・・・。アパートの隣には、偶然にも日本家具専門の店「Le Futon(ル・フトン)」があり、我が部屋の電気など幾つかはその店で買ったと思われる電気だった。
「どっちの部屋にする?君が先に着いたんだから、その特権で選べるよ。こっちの部屋の方がいいよね」
それは勿論、ダイニング奥の部屋のことだ。誰がどう見ても、広くて明るいその部屋を選ぶだろう。後から来るアメリカ人学生には申し訳ないと思ったが、僕が奥の部屋を選ばせてもらった。電気や水道、更には電話の手続きも僕がやるのだからいいだろう!と軽く考えておいた。街中という立地条件や、この部屋の居心地の良さから、これからホスト・ファミリーを探すことも、一人部屋を探すことも、すっかり頭の中から消えた。ああ、でも一緒に暮らすことになるアメリカ人はどんな人なんだろう・・・と不安になる。

クロードの家はブザンソンから車で(飛ばして)30分程のところの郊外にあった。そこは「村」だった。その風景に僕は感動した。子供の頃に見たアニメ「名犬ジョリー」を思い起こさせるような、スイスっぽいのどかな風景。「ずっと前からここに来たいと思っていた」という感覚に陥った。そういう気持ちは初めてだった。クロードの家に着いて更にビックリ。広い庭、プール、リンゴの木・・・そして、なんと18世紀の城を改築したというデカイ家!クロードの奥さん、シルヴィーが出迎えてくれた。品のいいマダムで、クロードとは逆にゆっくりと話す人だった。
「私は料理が大好きなの!」
と言う本人の言葉通り、料理が美味しい。ストラスブールのマダムに次いで、家庭料理には恵まれている。この日はチキンをご馳走になった。更には、離れの地下にあるカーブ(ワイン貯蔵室)から取り出してきたワイン、この地方の独特なチーズ「コンコワイヨット」も美味しいのなんのって!

18世紀にタイムスリップしたかのような寝室で、とても幸せな気分になりながら眠りについた。恵まれ過ぎていて恐いくらいだった。

第11話につづく

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