in France 1998.9-1999.9



第5話
個性的な人びと

前編

2週目開始。先週皆で観に行った映画「奇人たちの晩餐会」が、早速授業の題材に使われた。何でも題材にしちゃうのネ・・・。僕は映画を観ても、内容などほとんど理解していなかったので、授業の内容はチンプンカンプン。ペアを組んでの作業の時は、相手にほとんどやってもらった。悔しい。午後、マヤと一緒に再度映画を観に行った。映画を理解することよりも、眠らないでいることの方がよほど辛かった。

街を歩いていてずっと気になっていた、とある映画館での上映作品。タイトルは「Suzaku」。日本映画だった。邦題は「萌の朱雀」と言って、当時、カンヌ映画祭で女性監督がカメラ・ドール賞(新人賞)を受賞していたこともあり、ちょっとした話題になっていたのだ。僕はマダムに夜外出する許可を貰って、一人で観に行った。静かな、静かな映画。いまいち(当時の僕の心には)沁み込まなかった。

帰宅し、マダムに「あまり好みの映画ではなかった」と告げると、僕が渡した映画のチラシに書いてあったあらすじを全部読み、マダムなりの分析をしてくれていた。何にでも興味を示すマダムは、僕の話も熱心に聞いてくれたし、またとても世話好きの人でもあった。僕の為に、日本茶を探しに行ったけれども見つからず、日本食レストランに出向いてそこの店員にも訊いてみたけれど、見つからなかったからまたトライしてみると言ってくれた。その気持ちだけで有り難かった。マダム自身は、紅茶を含めてお茶は一切飲まないというのに。また、僕が(ストレス解消の為に)プールに行きたいと言うと、車で連れて行ってくれたのだが、僕が持っていたトランクス型の水着は禁止されており、競泳用を着用しないと泳ぐことが出来なかったことを告げると、息子さんが以前使っていたものを探し出してくれたりと、あれこれ手を焼いてくれた。

16日(水)には、おっかない看護婦バルバラがバカンスから帰って来た。おっかない、と言っても別に被害を被ったわけではないのだが、例えばマダムが僕に気を遣って「今夜、面白いテレビがあるから一緒に観ない?」と言ってくれたのに、バルバラが「ほっときなさい!」と不機嫌な声を出す。ホントに恐ろしい・・・。

学校の授業はどんどん難しくなっていき、もしホームステイをしていなかったら絶対に休むのに・・・とまで思っていた。LL教室(視聴覚室)での授業も殊更ハードで、ある日は、自分がニュースキャスターになったつもりで原稿を書いてそれを読み上げるという授業が行われた。必死になってやったが、先生には「とても良いけど、もっと話すスピードを速くすれば尚良し」と言われた。外国語を勉強していて、スピードを指摘されたのは初めてで、正確に話すだけでなく、フランス人と同じスピードで話すことも(訓練の上では)重要なのだと気付かされた(後に、ブザンソンでの学校でもやはりスピードを問われることがあった)。

担当講師のクリストフは愉快な人で、以前台湾にフランス語教師として4年間住んでいたこともあるという。休憩時間に、僕に漢字の質問をしてきた。その会話の中で、逆に僕が「○○は中国語で何て言うの?」「それは中国語ではどういう漢字を書くの?」とクリストフに質問したが、アジア人がヨーロッパ人に中国語を教わっている図が何となく可笑しかった。

後編につづく

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