再び緊張の時を迎えていた。同窓会での旧友や先生との再会の時間が迫っていたからだ。レストランに向かう前、まずは英語のB先生との待ち合わせ場所に向かった。K先生の車でB先生を待っている間、K先生はドアを開けて立っていたのだが、いきなり「ブッ」という音が聞こえた。
「今、屁ぶっこかなかった?」
「ハハハハハハハ!聞こえた?」
「聞こえたよ。なんで屁ぶっこいた?」
「我慢できなかったから!」
「屁もあくびも禁止!!」
そうこうしているうちにB先生が登場!この先生にはESL(English as a Second Language=第2言語としての英語、つまり外国人向けの英語の授業)で大変お世話になった。定年退職して間もない女性の先生だが、アメリカ人にしては珍しく当時よりも痩せている。思わず「若くなったね」などとワケの分からないことを口走ってしまった。

今回予約してくれたレストランはルイジアナ料理の大人気店なのだとか。というのも、僕がリクエストしたのはK先生とよく行ったニューオリンズ・スタイルのレストランだったのだが、K先生は全く覚えていないのだという。話を突き詰めて行くと、どうも潰れたらしいことが分かった。それでルイジアナ料理の店を予約してくれたのだが、これがすこぶる付きの人気店で、予約したというのにしばらく待たされた。僕とB先生が外で待っている間、巨漢体の男と目が合った。その瞬間僕は叫んだ。
「オオオオオオ!!久しぶりー!!!!」
「コウ!!よく分かったな!」
そりゃそうだ。当時かなりスリムだった彼は今や別人のようだ。100ポンド(約45kg)以上太ったらしい。当時のノリで思わず「なんでそんなに太ったの?食べすぎ?」と軽く訊いたら、神妙な顔つきで「これには説明が必要だ」と切り出してきた。
「当時付き合っていた○○覚えてる?」
「覚えてない。というか、知らない」
「彼女が19歳で死んだんだよ。そのショックで精神的にやられた。それで食に走ってしまった」
・・・まさかこんな重い話になるとは思わず、返す言葉が見つからなかった。まぁでも、こうして20年ぶりに同級生と再会出来たことを喜び合った。すると今度は向こう側から「コウ?」という声が聞こえた。ふと振り向くと、当時音楽の授業で1、2を争う程の美女が立っていた。20年経ってだいぶふくよかになったが、当時と変わらない笑顔である。彼女はなんと、隣のテネシー州から車で4時間もかけて来てくれたのである!



ようやく席に通されたが、店内はお客さんでビッシリ!僕たちのテーブルも、ひとりを除いて皆集まったので乾杯をした。メニューの中に「ニューオリンズ・スタイルのエビ」という、正に僕が欲していたものがあったので、僕は迷わずそれを注文(しかし僕が欲していた味ではなかった)。皆が「コウ、アリゲーター(ワニ)の揚げ物、これ美味しいから食べようよ!」と言ってくる。
「アリゲーターの?」
「そう!すっごい美味しいから。アリゲーターって知ってる?」
「知ってるよ。See you later, alligatorのアリゲーターだろう?」
「そうそう!」
そうそうじゃねーだろっ!!



昨夜ホストマザー宅に来てくれたRさん、そして僕の知らない誰かもひとり混じり(当時ニューヨーク旅行に共に参加していたひとりらしい)、不思議なメンツだった。30分程遅れて、プロム(卒業ダンスパーティー)に一緒に行った相手がやって来た。彼女は20年経っても本当に変わらない!皆に僕のCDや日本のお土産を渡し、そして当時の思い出話で盛り上がった。賑やかな店に8人集まっているので、当然の如く、全員での会話が成り立たない。それが残念だった。店の雰囲気は楽しい。僕はジョージアに20年ぶりに来ているんだと思うと、嬉しいと同時に不思議な感覚に陥った。次いつ来るのか、もう来ないのか、それは分からない。今この一瞬が大切な時間だ。そしてここに来られなかった人たちもいて、ここにいたら楽しかっただろうな、などと夢想する。

ふと隣に座っていたDに腕を突かれる。
「起きてる?」
「大丈夫大丈夫!」
「本当に?さっきも同じこと言ってなかった?」
実はここにきて、時差ボケなのか猛烈な眠気に襲われていた。僕はこれまで時差ボケとは全くの無縁だったのに、やっぱり年齢には逆らえないのだろうか?

心底嬉しかった。1年にも満たない月日を過ごした人たちが、僕のことをずっと覚えてくれていて、こうして20年ぶりに集ってくれたこと。きっとまたいつか会えるのだろう。次は5年後かもしれないし、また20年後かもしれない。それでもまた会える希望を持っていたい。See you later, alligator!

時差ボケの中、K先生が「タイムラグ」ネタを話しているのが聞こえた。またその話!何が可笑しいんだっ!?



<過去と現在>

※"See you later, alligator"とは直訳すると「じゃあね、ワニ!」となるが、「さよなら三角また来て四角」のように、laterとalligatorで韻を踏んでいる。

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INDEX
Part 1 20年ぶりに降り立ったアメリカ、その時胸の高鳴りは…
Part 2 誰も迎えに来られず、あわや“空港でひとり茫然物語”…?
Part 3 出発前からイライラ…すべてがスムーズに行くワケはない
Part 4 ついに再会!けど、冗談もほどほどに!
Part 5 なぜか日本食レストランで
Part 6 記憶にございません
Part 7 マッサンと美しいケツ
Part 8 穏やかな人、穏やかな空間、切ない時間
Part 9 See you later, alligator!
Part 10 ジョージア最終日に“だっふんだ!”
番外編 サンフランシスコぶらり散歩〜ミッション・ポッシブル〜