第47話
「カゲキな週末」

ダラスが母親に忘れられ、ベリンダの弟夫婦がやってきて、夕食には呼ばれず、雪が降り2日も学校が休みだった週の金曜日、週末は絶対に家にいるもんか!という思いの一心で、フィリップに電話した。
「明日、映画観に行こうよ」
「ああいいよ。何観たい?」
「トム・クルーズの“インタビュー・ウィズ・ヴァンパイヤ”はどう?」
「ああ・・・それもう観たよ。モールに行くから、何の映画が上映されてるかチェックしてみるよ。明日電話する」
「了解。あと、本とCDも買わなくちゃ」
「OK、連れてくよ」
週末、誰かと出かける予定があると思うだけで、人生バラ色かと思うくらい喜ぶ僕だった。家にいても気持ちがずっしり重くなるだけだ。

翌日、なかなかフィリップが電話してこないので、僕が電話をかけた。
「ああ良かった!君の電話番号を失くしてしまって」
そんな予感がしていた。フィリップは4時きっかりで迎えにやって来た。玄関先から車を見ると、助手席に僕の知らない女の子が乗っていた。
「誰?」
「学校の友達だよ」
その女の子はキャサリンといい、派手目で、ちょっとどこか抜けてそうな、僕の苦手なタイプだった。この2人、付き合ってるんだろうか?随分と似合わないカップルに見えるが・・・。車を降りた時、キャサリンはフィリップのジャンバーを着ていた。結局、映画はトム・クルーズの「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイヤ」を観ることになった。席に着いた途端、2人はベッタリ寄り添いくっついた。映画上映中も、イチャイチャし続け、何気なく横を見たら、フィリップと目が合ってしまった。イチャついてる割に、キャサリンがフィリップにキスをせがむと拒んでいる。一体どういう関係だ?映画は何ともカゲキな気持ちの悪い映画で、そして横では似合わないカップルがいちゃついてる。一体、自分は何だろう?と思ってしまった!

映画が終わったら、僕はどういう態度をとればいいのだろう?と思っていたのだが、フィリップは普通に話しかけてきた。
「面白かった?」
「ああ、まあまあね」
映画の後、銀行のATMに寄って貰った。車から降り、お金を下ろそうと、ATMを操作したのだがどうもうまくいかない。いつもやってることなのに・・・。フィリップに助けを乞おうと、車の方を振り向いたら、なんと2人が熱いキッスを交わしてるではないか!なんだこりゃ!仕方なしに、もう一度自分でやってみた。すると今度はうまくいった。結構時間を食ってしまったなぁ、でも2人にとっては良かったりして・・・などと思いつつ、車に戻った。

モールに向かう途中、フィリップが僕に言った。
「今日電話してきてくれて良かったよ」
すると、キャサリンがすかさずフィリップに言う。
「あなたの電話番号教えてよ!」
フィリップは答えない。一体、この2人は何なんだ?デートなら2人ですればいいものを、なぜ僕を交ぜる?しかも、キャサリンはフィリップの電話番号を知らないときた。訳の分からない組み合わせ・・・。キャサリンは3週間前にネブラスカ州から引っ越してきたばかりなのだそう。
「フィリップは南部なまりがあるから、彼のこと嫌いなの」
などとおちゃらけていた。

モールで夕飯を食べた。僕とフィリップは、日本食のファーストフード「TOKYO EXPRESS」を選んだ。キャサリンがトイレに立った時、「映画、あんまり面白くなかったね」とフィリップが言った。面白くない映画をわざわざ2回も観るなんて。
「明日、天気が悪くなかったら一緒に教会に行こうよ。天気が良ければ、午後に電話する。夜に教会に行くから」
僕たちはアトランタの郊外の、しかもその外れに住んでいたので、車なしでは何処にも行けないのだった。フィリップは、学校のあるカータースヴィルに住んでいて、僕の家までは車で20分くらいかかった。わざわざ僕を迎えにアクワースまで来て、そしてまたカータースヴィルに戻り、またまた僕を送りにアクワースまで運転、というのもなかなかの重労働なのだった。

その夜、10時45分頃にフィリップのお母さんから電話がかかってきた。
「フィリップがまだ帰ってないんだけど、あなた一緒だったのよね?」
「はい。家に送ってもらって、9時頃に別れましたけど」
「その後どこに行くとか言ってなかった?」
「聞いてないです」
「あらそう・・・夜遅くにごめんなさいね」
それから30分後、フィリップのお母さんが電話をかけてきて、電話をとったベリンダにフィリップの帰宅を告げたのだった。

翌日は晴天だったが、フィリップから電話はなかった。夕方5時頃、ベリンダが出かけるから付き合ってと言ってきたので、どうせフィリップも電話してこないだろうし、ベリンダに付き合った。車の中で、ベリンダはちょっと過激な話をした。
「ウェンディー(ダラスの母親)はとんでもない女なのよ。あの女、5回も離婚してるの。デニーはウェンディーの5番目の男で、今また彼氏がいるのよ。ただの色情女よ。自分の息子と過ごす週末のことも忘れるなんて信じられない!ウェンディーは両親からも断絶されてて。デニーも厄介な女につかまったものだわ」
更に、子供の話になった。
「私とデニーの間に子供はいないけど、これからも作らないと思う。デニーは本当はダラスは欲しくなかったの。引き取りたくなかった。でも、そうせざるを得なかったのよ」
ということは、ダラスは2人にとって厄介者ということ?
「レンディー(ベリンダの前夫)も最低なの。自分の子供(トレイ)を親に預けてるのよ、自分で引き取っておいて。トリーを迎えに来る時だって、私たちの家まで来ないでしょ?面倒だから、時間かかるからって、中間地点まで私を来させるの。自分の娘のことなのよ!愛情のない男だわ」
こうしてベリンダは、高校生の僕に、自分の感情をぶちまけることがよくあった。普通なら聞かれたくないようなことを、すらすらと述べてくるので、家族として受け入れられている気がして嬉しく思っていた。

2日後、学校でフィリップに会った。
「お母さんが・・・」
「知ってる」
「どこに行ってたの?」
「キャサリンを送って行っただけ」
「付き合ってんの?」
「いや別に(Not really)」
夜遅い帰宅にお母さんはカンカンで、日曜日は外に出してくれなかったのだそうだ。間もなくして、フィリップとキャサリンは話すことさえなくなっていた。やれやれ。

第48話へ



留学記目次