第39話
「マギー宅で真実を」

デニーとベリンダに散々なことを言われ傷つき果てた僕たちは、翌31日、ビル宅に戻って来た。ビルたちと家で映画を観たりして、穏やかな大晦日を過ごした。それにしても、ビルもダイアンも、人が傷つくようなことは決して言わない人たちで、ここにホームステイ出来たらいいのにと思った。

〜当時の日記より〜
何はともあれ、今年は本当に貴重な年だった。来年はもっともっといい年にしたい。

年が明けて1月1日は、教会に行った。そこで夏にお世話になったスティーブと再会した。元旦と言えども、アメリカはクリスマスを派手にやるので、年末年始は全く以って静かである。日本の賑やかな正月が懐かしく思えた。僕たちはトランプをやりながら、のんびりと過ごした。

翌2日は、日本の高校のアドバイザーでもあるマギー宅にお呼ばれしていた。夕方4時頃、ジェロールが迎えに来てくれた。彼にも夏に大変お世話になり、マイケル・J・フォックスに似ていることから、僕たちはマイケルと呼んでいた。31歳の、とても穏やかな紳士という感じで、尊敬に値する人だった。マギー宅のパーティーでは、ティム(マギーの夫)、ナスヒコ君(僕たちよりも1歳年上だが、2年間留学していたので、帰国後は同じクラスになり一緒に卒業した。後に凄く仲良くなるとはこの時点で想像もしていなかった)、ヒロシ君(夏の語学研修で一緒だった同郷の人で、デンバーに留学していた)、リナさん(この方も同郷の人で、デンバーの大学に留学していた。ちなみに、リナさんに出会う前から、僕たちはお母さんと親しかった)も参加し、とても賑やかな夜になった。

皆が集まったところで、食事をしながら話をした。マギーに「ホストチェンジをして、今のホストファミリーはどう?」と訊かれ、僕は「いいファミリーです」と答えたのだが、隣にいたカナコに「本当のこと言ったら?」と言われた。そこで僕は真実を話すことにした。沢山傷つき、勉強することも手紙を書くこともやめて欲しいと言われていること、いつもリビングでテレビを観ていないといけないこと、ベビーシッターをしなくてはならないことなど、全て吐き出した。
「私、あなたのその苦悩がよく分かるわ」
マギーが言った。
「私も高校生の頃、メキシコに1年間留学してたの。その時、本当に辛かったもの。あなたと同じように、いつもリビングには居たくなかったし、テレビも観たくなかった。でもこれはとても難しい問題ね」
マギーが留学経験を持っていたことは初耳だったが、あの明るくて屈託のないマギーが僕と同じ気持ちだったなんて俄かに信じられなかった。
「テレビを観たって言葉が全部分かるわけでもないし、いつも喋ろと言いつつ、テレビを観てる時は喋れないんだからねぇ・・・」
ティムが言った。そして、僕がいつもおとなしくて、喋らないと言われていることに関しても、マギーは驚きを隠さなかった。
「信じられない!あなたは big talker(よく喋る人)なのに!」
ベビーシッターに関しても、お金を貰っているのなら理解出来るけど、無料というのはおかしい、と言われた。
「エリアレップに相談した方がいいわ」
やはり、自分が思っているよりも重大な問題を抱えているのだろうか、と思うと、気が重かった。

その後はゲームをしたり、カラオケで歌ったりして楽しんだ。ゲームは、2つが真実、1つが嘘の事柄を話し、どれが嘘かを当てるというもので、見破られなければ問題を出した人の勝ち。僕は以下の事柄を話した。

1. ピアノ発表会で突然ピアノを弾けなくなった。
2. 以前、学校のバスケット・チームに入っていた。
3. 小学校1年から3年まで、知り合い宅の犬の散歩をほぼ毎日していた。

さぁ、この中で「嘘」はどれでしょう?自分でもウマイ問題だと思ったが、さすがに誰も見破ることが出来なかった!(正解は下に記載)

最高に楽しい時間を過ごしていた。あさってにはジョージアに帰らなければならないことを思うと憂鬱だった。

マイケルが「明日、また会おう」と言ってくれた。明日はコロラドにいる最終日。思いっきり楽しんで悔いのない時間を過ごしたいと思った。

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クイズの正解は1番。皆は、僕がまさかバスケをやっていたことは信じられなかったようだった。これが落とし穴。自分でも信じられないのだから。

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