第18話
「意外な事実」

後編

心が凍りつきそうだった。ジュリアナが、イヤでイヤでやっとの思いで飛び出してきた家に、今、僕がいるのだろうか?僕の勘違いであって欲しい。意を決して僕はベリンダに恐る恐る訊ねた。
「ジュリアナは、この間までこの家にホームステイしていたの?」
「そうよ」
ベリンダは顔色ひとつ変えずに、そう答えた。目の前が真っ暗になった。言葉が出なかった。
「She was messy! 彼女はもうブラジルに帰ったわよ」
"messy"(厄介、不快)の意味が分からなかったのに、聞き返す余裕さえ僕にはなかった。なんということだろう。ロレインはなんでこんな人のところに僕を送ったのだろう。いや違う、本当はベリンダが僕のホストファミリーを探してくれるはずだったのだ。でも、僕を気に入ってくれてベリンダがホストになってくれた。ジュリアナの言っていたことが信じられなかった。そんなに意地悪なことをする人には見えなかったのだ。ジュリアナの勘違いであって欲しい。何かの間違いであって欲しい。
「今迄、留学生を受け入れたことはある?」
ルイスヴィルのホストはそれまで留学生を受け入れたことはなかった。でも、もしベリンダがこれまでも留学生を受け入れているのならば、安心出来るような気がした。
「あるよ。チリから来た男の子と、ブラジルから来た女の子」
それを聞いて少しホッとした。そうだ、昨日ケリーが言っていたこと、1月からアルゼンチンの女の子がこの家にステイすることになっているのであれば、僕は必然的に出て行かなくてはならない。この衝撃的な事実を知った今、1月のホストチェンジが本当になってほしいと願った。しかし、その小さな望みも打ち砕かれた。
「本当は来年の1月からアルゼンチンの女の子が家にステイすることになってたけど、あなたがいるから、その子は他の家にステイさせるわ」

僕はショックを受けていた。突然寂しさが襲ってきた。この家は恐ろしい家なのだろうか?昨日会ったフォネイドが羨ましく思えた。リチャードとケリーの家にホームステイをしているなんて・・・。僕はなんで常にホストファミリーのことで思い悩まなければならないのだろう?デニーとベリンダはいい人たちだと思う。そう信じたい。でも、ジュリアナの話を聞いてしまっていたゆえに、不安が襲ってくる。自分もジュリアナと同じように「この家を出たい」と、またしても思ってしまうのだろうか?しかし、結局はここで頑張らなくてはならない。デニーとベリンダを信じて。

明日は月曜日なのに学校にはまだ行けない。ロレインが動いてくれないと行きたくても行けないのだ。ルイスヴィルを出て1週間が経った。たったの1週間だというのに、いろんなことがありすぎて、随分と長い時を経たような気がしていた。そしてこの1週間の間、希望と絶望とが常に交差してやってくる。何度も、何度も。幸せが見えたかと思うと、また突き落とされる。何の因果か、ロレインの家でたまたま出会ったジュリアナのいた家に、今なぜか僕がいる。ジョージアに来てまだたったの1ヶ月半、この短い間に、僕の身に起こることは、あまりにもドラマティックな展開だった。

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