第88話
ポン子が!!!

8月10日(火)。デンマーク館を今月の宿にしているアサミヤの部屋に居候して3日目。実はポン子も今月デンマーク館の部屋を借りていたが、僕と時期を同じくして北欧を旅行中で、いつ戻って来るのか分からなかった。僕の毎朝の日課は、ポン子の郵便受けを見ることだった。溜まっている郵便物があればまだ旅行中、なくなっていれば帰ってきたと判断できるわけだ。僕がデンマーク館に居候しているなんて、ポン子は夢にも思ってないだろうから、きっと驚くだろうなぁ。と、毎朝ドキドキしていた。それが今朝、郵便受けを見ると、昨日まで溜まっていた郵便物がない!ということは、帰って来ている!!しかし、部屋番号も分からないのにどうやって会えるのだ?

午前中はオペラの近くにある日本の本屋で立ち読みをし、プランタン(デパート)で免税についての説明を受け、花子宅に預けていたスーツケースを取りに行き、再びデンマーク館に戻って来た。昼過ぎにアサミヤが学校から帰って来てからランチを食べに行く予定をしていたが、帰って来た時はちょうど雨が降っていたので、止むまで部屋で待つことにした。腹が減って仕方ないとダダをこねる僕に、アサミヤはドライ・アプリコットをくれた。美味しい美味しいと言ってバクバク食べる僕。「それ繊維質だからあまり沢山食べない方がいいよ」と忠告されるも、止められない。そうこうしているうちに、雨が少し止んできたので、リュクサンブールまで出かけた。

ケバブを買って食べ、その後Quick(ファーストフード店)に入ったら、突然便意を催したので、トイレに入った。最初は普通だったのだが、次第にヤバイ状態になり・・・下痢が止まらず、トイレから出られなくなってしまった。さあ出よう、と腰を上げると、また下痢。永遠にここから出られないのではないか?と思うくらいだった。アサミヤもさぞ心配しているのではなかろうか?と思いつつ、時計を見ると30分も経過していた。やっとの思いでトイレから脱出し、アサミヤの前に姿を現したら、案の定「どうしたの〜?」と心配顔。
「下痢が止まらなくて・・・」
「やっぱり、あのアプリコットが原因でしょ!あんなに一杯食べるから!!」
「もうどうしようかと思った・・・」
「あまりにも出て来ないから、トイレの中で倒れてるんじゃないかと思って、今、店の人に言いに行こうかと思ってたところだったんだよ」
危機一髪!ただの下痢で大騒ぎになるところだった。

ゲッソリしながらデンマーク館に戻った。玄関を入り、階段の横にテレビのある談話室みたいな部屋がある。階段を上る際、ふと部屋の中を一瞥したら日本人らしき女がいたが、特に気に留めず、階段を上っていたら、アサミヤが僕の後ろから
「ねぇねぇ、功君、あの部屋に今、日本人っぽい女の人がいて、目が合ったんだけど・・・」
と言うので、もしや?と思い、振り返ったら、なんとポン子がビックリした顔で突っ立っていた。
「あっ・・・」
「えっ・・・」
お互いビックリして声にならない。僕はポン子が帰って来ていることを郵便受けで知ってはいたものの、ポン子はまさか僕とここで会うとは夢にも思っていないはずだった。そして、ポン子の第一声。
「なんであなたがここにいるの?!・・・で、その子(アサミヤのこと)、ナンパしたの?」

偶然にも、ポン子の部屋はアサミヤと同じ階の並びにあった。

そういえば、元々僕は北欧から帰って来たら、パリでアパートを借りると言っていたはるを宅に泊めてもらうはずだったのだ。しかしある事情でダメになり、ホームステイをするはずだったアサミヤは、斡旋してくれるオフィスの怠慢行為により一人暮らしを余儀なくされ、宿なし状態の僕は、これ幸いとアサミヤの部屋に居候させてもらっている。そして、偶然にもポン子と同じ寮にいるなんて・・・何が起こるか分からないものだ!

第89話につづく

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