第55話
帰る人、来る人

前期で一緒だった青学のメンバーたちは皆帰国していたが、ただひとりアキさんはまだブザンソンに残っており、2月18日(木)の帰国前日に会った。僕、アキさん、ファビアンというフランス人と3人で、我が家から目と鼻の先にあるニセモノ日本食レストラン「Tokyo」に初めて行った。ベトナム人が経営するこのレストランは悪評ばかりであったが、モノは試しである。

3人なので、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ちらし寿司を頼もうとしたら、店員に「(3人には)多すぎる」と言われたので、すき焼き3人前とちらし寿司を頼んだ。しかし、全く以って量は少ない。しかも、肝心のすき焼きの具は、白菜がメインでどっさり、他にはイカ、エビ、マッシュルーム、肉、大根という奇妙な組み合わせ。一気に混ぜるし、米はタイ米。なんだこりゃ。

早々と退散し、Pop Hallで飲み、その後Pub de l'Etoileで飲んだ。愉快な夜だった。

2月19日(金)。同じ大学の友達イワデレがこの2月からフランスに来ている。提携しているアンジェの大学にこれから1年間留学するのだ。この週末にパリで会うことになっており、僕とポン子とリンゴは今日からパリへ。ルーブル美術館近くにある「体心」という日本食レストランへ。さすが、ブザンソンのニセモノとは違う。

2月20日(土)。イワデレと半年振りの再会!大騒ぎである。ノートルダム近辺を散歩し、近くのレストランでフォンデュを食べ、高層ビルが建つ新都心ラ・デファンスに行き驚き、一足早く帰るポン子はTGVの時間がギリギリで走る、焦る、間に合う。

ポン子と別れてから、ユースホステルにチェックイン。これがまた、僕が今迄見てきた中では一番汚いユースであった。「こんな汚いところでは寝られない!シャワーも浴びたくない!」とダダをこねるリンゴをなだめすかし、夕暮れ時のモンマルトルへと向かった。目的地に着くまでにどうしてもトイレに行きたくなったリンゴ、我慢出来ないと言いつつ、有料の公衆トイレボックスには汚そうだから入りたくないと言うが、そんなことも言っていられないところまできてしまったらしく、覚悟を決めてボックスの中に消えて行った。どんな顔で出て来るのかと思いきや、
「カンゲキ〜!!!あれは私の為にあるトイレよ!あの中が水で全部洗い流されて、清潔なのー!」
すこぶるご機嫌であった。

モンマルトルの丘の上から暮れ行くパリの街を眺める。インチキ絵描きがひっきりなしに声を掛けてくる。有名らしきレストランで名物ポトフを食べる。イマイチ。すっかり暗くなったモンマルトルの、どこか見覚えのある風景。「あ、これはあの映画“アパートメント”に出て来る風景だ!」感激して写真を撮る。「アパートメント」のみならず、他の映画でも使われる美しい街並み。

ユースに帰ると、「こんな汚いところでは眠れない」と豪語していたリンゴは、お疲れのご様子で、即座にベッドに潜り込みスヤスヤと眠りに入った。僕とイワデレは、ビールを飲みながら中庭で朝の4時まで喋っていた。そこから見えるフロントでは、アメリカ人女が誰かとイヤらしくキスをしまくっているのが丸見えだった。

第56話につづく

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