第40話
贅沢なクリスマス

12月25日(金)。フランスにおけるクリスマスは家族一同が集まってパーティーをする。僕はロータリーの保証人クロード宅に招かれていた。11時半にクロードのお姉さんが迎えに来てくれて、ブザンソンの郊外に向かった。約3ヶ月振りにクロード宅に着くと、ジャン・ブノワ(クロードの孫)が喜んで出迎えてくれた。フランスに来て4ヶ月。クロードの早口にも慣れた気がする。シルヴィー(クロードの奥さん)は、
「この数ヶ月でフランス語力が物凄くアップしたわね!ビックリよ!この間送ってくれたクリスマス・カードに書かれたフランス語も、ミスがひとつもなかったわ!」
と、久しぶりに話す僕のフランス語を褒めてくれ、日々上達が実感出来ない僕は真に受けて歓喜したのも束の間、
「話すのはたぶんそれほどでもないけど、理解力はアップしたね」
クロードの言葉にちょっとガックリ。まぁ実際、外国生活において語学の面で一番先に上達するのは「聞き取り」であり、その次が「話す」なので、クロードの言ってることは間違っていないのであろうが・・・。

食事をする前に、皆サロンでアペリティフとタバコと会話を楽しむ。何となく、「最近から喫煙を始めました」とは言い出し難く、グザビエ(クロードの息子)のタバコをまじまじと見つめてしまった僕の視線に気付いた彼は、「吸う?」と、タバコを僕に差し出してくれたが、咄嗟に断ってしまった。

1時過ぎからディナー開始。これがまた、そんじゃそこらの一流レストランに負けず劣らないシルヴィーの料理!フォワグラやキャビアなどもふんだんに使われ、料理の皿が変わるごとにワインも変わる。しかも古いのが76年物、一番新しいものでも86年物だ。一般家庭での高級食材に高級ワイン。10歳のジャン・ブノワは、たんまりとキャビアが乗ったベイクト・ポテトを食べながら、次から次に出てくる料理でメインのステーキが出る前に、既に腹一杯になっていたらしく、母親に「無理して食べなくていいのよ」と言われていたが、僕はその返答を聞き逃さなかった。
「うん。でも、この黒いの、美味しい」
10歳ながらにして、分かってらっしゃる・・・。

昼過ぎから始まったクリスマス・ディナーが終了したのは、なんと夕方6時過ぎ。18世紀の城を改築した家で過ごす超贅沢なクリスマス。僕を招いてくれたことに、心から感謝した。

この夜はクロード宅に泊まり、翌朝帰った。帰りの車中で、クロードが最近の生活について僕に訊いてきた。30分間、僕はずっとひとりで喋り続けていた。ブザンソンに来た当初はクロードの早口を聞き取るのに精一杯で、口数もあまり多くなかったが、スピードにも慣れ、自分のことをベラベラと話している自分に驚いた。

語学力は、「全然伸びない」「上達したかな?」この繰り返しである。ふとしたことで、思うように話せていることを実感すると、とてつもなく嬉しくなる。(逆の場合の方が多いケド)

ちょっとだるいと思ったら、37.1度の熱があった。スイスの寒さが効いたのかも知れない・・・。

第41話につづく

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