第35話
スイス・冬の旅

12月20日(日)。今日からスイスに一人旅。クリスマス前に旅に出たかったのだが、どうしてもスイスに行きたかったわけではなく、ただ単にブザンソンからジュネーヴまで電車で2時間の距離だったことと、フランス以外のフランス語圏に行ってみたかったというだけの興味だった。

4ヶ国語(フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロマンシュ語)が公用語になっているスイスだが、今回は4泊5日の滞在なので遠くには行かずにフランス語圏のみに絞った。夕方にブザンソンを発ち、6時半にジュネーヴ着。寒い・・・。ブザンソンも寒いが、さすがにスイスまで来ると寒さが違う。身も心も凍るようだ。地図を片手にユースホステルを目指すもなかなか見付からない。歩行者に道を訊ねると、
「I don't know... I don't speak French!」(分かりません・・・フランス語話せないので!)
アメリカ人の観光客だったようだ。今度は人のいるオフィスに入って道を訊く。迷いながらやっとユースホステルに到着。ドミトリー(大部屋)の同室者はアメリカ人グループだった。とことんアメリカに縁のある僕。
「これから飲みに行くんだけど、一緒に行かない?」
と誘われたが断り、早々と寝た。・・・が、なかなか寝付けない。ベッドの中でウダウダしているうちに、彼らが戻って来た。彼らもすぐにベッドに入ったものの、喋りが収まらずうるさいの何のって!他に寝てる人もいるというのに。さすがの僕も堪忍袋の恩が切れ、
「すみませんが、静かにしてもらえませんか?」
英語で、しかもすこぶる丁寧な口調で言うと、「すみません」と誰かが言い、静かになった。結局夜中の2時半まで眠れなかった。

12月21日(月)。国連本部に行くも、クリスマス休みの為閉まっていた。警備の人には、フランス語で話しかけたのに英語で返された。閉まっているのでは仕方がないので、気を取り直して市内観光。ジュネーヴの名物でもある噴水は“冬なので”噴き出しておらず、花時計も“冬なので”枯れていてさっぱり美しくない。昼食をバーガーキングで摂ると、セットが800円もする。だが概してファーストフードではこの腹は満たされない。そう、スイスは物価が高いのだ。“冬なので”寒くて街の美しさに見惚れる余裕すらない。心も寒い。

3時半になり、僕は駅に向かった。今日はスイスのフランス語圏第2の都市ローザンヌに行く。あの有名なレマン湖をはじめ、とても美しい街だと聞いていた。ほんの少しだけの滞在だったが、どうもジュネーヴでは空回りするので、ローザンヌに思いを馳せた。それにしても、ジュネーヴからローザンヌまでは電車でたったの30分だというのに、切符代が2,000円もする。高い!

無事にローザンヌに到着し、バスに乗ってユースホステルを目指した。バスを降りて目的地に向かって歩くも見当たらない。とある店に入って道を訊ねると、なんと数ヶ月前に潰れたとのこと!途方に暮れた。「地球の歩き方」に載っている他の安宿を目指し再出発。辿り着いた宿は、ジュネーヴのユースホステルよりもほんの少し割高だが、随分と綺麗で明るいユースだった。心が躍ったのも束の間、フロントの男がすこぶる無愛想。お互いフランス語で話していたのに、なぜか途中で英語に切り替わる。外国人相手の商売だからか、相手が外国人となると、英語が口を突いて出てしまうようだ。僕はわざとフランス語で訊き返したが、露骨にイヤな顔をされてしまった。

このユースのドミトリーはかなりの大部屋で、30人分くらいのベッドが並んでいた。しかも、珍しく男女兼用。荷物を置き、食堂に行くと、これまた揃いも揃って無愛想なおっさん達。なんだこのユースは?!

寒い、高い、英語。この3つがスイスにいる間中付きまとう。無性にフランスが恋しくなる。部屋は満室にならなかったが、またもやアメリカ人グループと同室。でもって、またもや飲みに誘われたが断った。

第36話につづく

フランス留学記目次