第24話
リンゴとポン子がやって来た

ストラスブールから帰った翌日、学校でアキさんに会うなり咎められた。
「ストラスブールに行ってだんだって?もう、君の誕生日会をやろうと思ってたのに、電話しても出ないし、サトル君もいないし、どこに行ったのかと思ったよー!」
青学グループは、誰かの誕生日の時には集まって盛大にパーティーをしていた。僕はまだ知り合って間もなかったし、自分の為にパーティーをしてくれるのかどうか半信半疑でいた。実際、前もって連絡はなかったのだ。でも、考えていてくれたのだ。素直に嬉しいと思ったのと同時に、申し訳ないとも思った。

学校にも次第に慣れ、日々が“日常”になってきていた。でも心はどことなく晴れない。気候のせいだろうか?冬に向かってどんよりしてきている。授業の後や週末に友人たちと楽しく遊んでも、その後は反動のように孤独感に襲われる。当初のような勉学意欲もあまりない。全てにおいて中途半端のような、心許ない日々が過ぎて行った。

そんな中、11月13日(金)はCLAの創設40周年記念パーティーがあった。この日は、夕方パーティーに参加した後、ポワチエに留学しているポン子と、レンヌに留学しているリンゴが我が家に遊びに来ることになっていた。2人共、同じ大学の同級生だ。心がウキウキしていた。午後、一般言語学の補講があり、今日提出したレポートはあまりの難しさに20点満点中5点とれればいいくらい、と思うくらいの出来だったのにも関わらず、心は久しぶりに晴れていた。

CLAのパーティーには沢山の人が来ていた。僕は空腹のまま何杯シャンパンを飲んでいたら、酔いが回ってきた。リンゴとポン子を駅に迎えに行かなくてはならないので、9時に学校を出て、まずは家に向かった。玄関を入ると、台所の電気が点いていたのでポールがいるのかと思ったら、ドアを開けた瞬間、そこにはポールではなく、なんとリンゴが一人、何食わぬ顔で座っているではないか!僕はあまりにも驚きの歓声を上げ、僕とリンゴは大騒ぎしながら再会を喜んだ。
「なんでここにいるの?ビックリ!!!どうやって来たの?」
「早く着いて、ここに電話したらポールが出たから、駅まで迎えに来てって頼んだんだけど、タクシーで来いと言われたから、タクシーで来たんだ。ビックリしたでしょ?」
相当な嬉しビックリだった。
「で、今迄何してたの?」
「テレビ観てた。ところで、さっきトイレ使わせてもらったんだけど・・・」
「うんうん、どっちの?」
「え?そこのトイレ・・・」
「ああ、それはポールのトイレ」
「なぁ〜んだ!・・・なんか汚いし、パンツは脱ぎ捨ててあるし、あなたらしくないって思ったの〜!」
「ポールのトイレ使ったなんて、おかしい〜!」
僕はひとりでゲラゲラと笑った。僕の部屋は奥にあるし、部屋に付いているトイレのドアも、まさかそこにトイレがあるとは思わないようなドアなので、知らなかったら当然玄関すぐのトイレを使うだろう。

僕たちは興奮状態のまま、ポン子を迎えに駅へと向かった。ポン子とは先月ポワチエで会ったので、1ヶ月振りの再会。リンゴとは電話、手紙やメールで連絡を取り合ってはいたものの、夏休み前から会っていなかったので、4ヶ月振りだった。3人で会うのも4ヶ月振りということで、この夜は大盛り上がり。駅前にあるカフェで談笑した後、家に来てあらゆる人に電話。日本の大学にいるフランス人の先生にも電話して、驚かせた。ブザンソンの大学に通っていたバタリア先生に、「ブザンソンは夜が綺麗」と言ったら、「夜に何やってんのー!コウ!!!」と突っ込まれた。

「今夜は夜通しよ!夜はこ・れ・か・ら!」と、大口を叩く割にすぐに眠くなってしまうリンゴを一人家に残し、僕とポン子は夜の街に繰り出した。家の近くにあるバーで飲むも、閉店の時間になっても飲み足らず、町で一番大きなバーに行くと、ちょうど閉まったところだったので、僕たちは諦めて帰宅した。リンゴは既にスヤスヤと眠っていた。
「今夜は夜通し、夜はこれから、と言ってたの、誰だっけ?」
と言いながら、カメラを取り出し、寝顔をパチリ。

僕とポン子が眠りについたのは朝方5時だった。

第25話につづく

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