第17話
ディジョンでの再会

10月17日(土)。起きたら蚊に10ヶ所以上も刺されていた。夜中に攻撃を受けたようだ。この日は、同じ大学の先輩メグミさんが留学しているディジョンへ。ブザンソンから電車(ローカル線)で1時間程で行けるブルゴーニュ地方の中心都市ディジョンは、ブルゴーニュ・ワインは勿論のこと、ブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)やマスタードでも有名な食の町。また、我が母校のフランス人教授のジャケ先生がディジョン出身で、話もよく聞いていた為か、行ったこともないディジョンには親しみを感じていた。

ディジョンに着いて、久しぶりにメグミさんと再会。ポワチエで再会したポン子と同様、お互い喋りまくる。気を利かせて、ランチ用におにぎりを作ってきてくれて、すこぶる感激。異国で食べる極々普通の日本食、異国で会う日本の友達というのは格別である。しかも、互いに留学生の身であるので、悩みが同じで、共感する部分が多く、話が尽きないのだ。将来の夢も語り合う。若き青春という感じだ!

ディジョンにはこれといって見るところもないので、僕たちはバスに乗って、ブルゴーニュ大学に行ったり、美しい小道を散歩したり、中心街を歩いたりして時間を過ごした。ブザンソンからさほど離れていない距離にあるのに、随分と雰囲気が違う町だ。「ジャケ先生っぽい町だね」と言ったら、メグミさんも同意。何がジャケ先生っぽいの?と問われても、何がそうなのかは分からないが、とにかく「ジャケ先生!!!」という感じで、やはり親しみが湧いた。ブザンソンよりも町の規模が大きく、近代的な印象を受けた。ブザンソンはこじんまりとしていて、「綺麗で可愛い町」とよく言われるが(ある友は、“不良が一杯いて恐い町”と評したが)、どことなく重い感じはする。ディジョンにはその重苦しさがなく、垢抜けている感じがした。ブザンソンは暗くてキライ、と言った人の気持ちがなんとなく分かる気がした。僕はブザンソンの方が好きだけど!

ポン子との再会同様、別れ際の夕飯はお互い憂鬱になっていた。自分が自ら望んでフランスに留学しに来たのに、「現実」というのはどこにいても同じ。だが、異国で暮らすとなれば、慣れ親しんだ母国での日常の現実よりも、遥かに厳しく重い現実が待ち構えているものだ。毎日ウキウキ・ルンルンというのは有り得ない。学校が憂鬱、人間関係が憂鬱など、何かはっきりとした原因がある場合もあるが、「自分が好きな国にいて、この国に居られることが幸せだ!って思えるのに、一体、何がこんなにも憂鬱なんだろう?」と自問することもある。だが、それは当然と言えば当然なのだ。一歩外に出れば、自分にとっては外国語であるフランス語を話さなければならないし、日本での常識など通用しないし、慣れるまでは常に肩肘張って生きているような感覚なのだから。

ディジョンとブザンソンは近いわけだし、気軽に行き来できる距離。これからも会おうね、と言って僕たちは別れた。束の間の非・現実から現実へと戻る瞬間は、ガクッと肩が落ちると同時に、「頑張ろう!」とすぐさま肩が上がる瞬間でもある。

第18話につづく

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