第7話
住居問題

ドイツ半日旅行の翌日は日曜日だったので、昼近くまで寝ていた。何となく台所に行きにくい気分。しかも、台所からはバルバラの声が聞こえてくる。ますます行き辛い。こういうのがホームステイの面倒臭さだと思った。ストラスブールに来て丁度2週間。マダムはとても優しくて大好きな人だったが、時にその優しさが重く感じる。ホームステイ(=他人宅で寝食を共にすること)にちょっと疲れを感じ始めていた。アメリカ留学でホームステイにはほとほと懲りていたが・・・時間の経過は心の傷を和らげ、記憶をも薄れさすようだ。ストラスブールでは1ヶ月だけだし、フランスの家庭料理を味わってみたいと思ったのでホームステイを選んだ。その後のブザンソンではアパート暮らしすることになっていた。いや、実のところはホームステイをしようと思っていた。ロータリー財団の奨学生として留学すると、受け入れ側のロータリー・クラブの人が何かと面倒を見てくれる。住まいに関しても同様で、日本を発つ前に、ブザンソンでの僕の保証人(世話係)、クロードに連絡をして、ホームステイ希望の旨を伝えていたのだが、ストラスブールに着いてからクロードから連絡が入り、
「今の段階ではホストファミリーが見つからないから、アパートを契約しておいた。ブザンソンに来て、ロータリーの例会に参加したりして一緒に家族を見つけよう」
と言われ、一瞬ギョッとしたのだが、でもアパート暮らしも気楽でいいかもと思い直した。

ストラスブールに来てからは、クロードからよく電話がきていた。ある日、学校から帰ると、マダムが「さっきクロードから電話がきたわよ」と言うので、何かと思ったら、
「アパートはもう一人のロータリー奨学生とシェアすることになったらしいわ。・・・しかも、アメリカ人だって」
「・・・・・・?!」
「でもほら、コウ、いい人かも知れないじゃない・・・ね、あなたの気持ちも分かるけど。とりあえず一緒に暮らしてみて、もし気が合わなければ、その時点で一人部屋を探せばいいじゃない?気楽に考えなさいな」
僕の肩に手を置いてなだめるマダム。なんでよりによって、フランスでアメリカ人学生とアパートをシェアしなくてはならないのか・・・ガックリ肩を落としてしまった。(言葉の面を考えると)どうせシェアするならフランス人学生が良かったのに・・・などと、幻想を抱いてしまう。しかしそうだ、マダムの言う通り、典型的なアメリカ人ではないかも知れない。実際、僕にだってアメリカ人の友達はいるわけだし。世界どこに行っても英語が通じると信じ込んでいる人ばかりとは限らないのだ。

「コウ、ストラスブールの後はどこに行くんだっけ?」
数日後、家族皆で夕食を摂っている時、アルザス建築の研究をしているこの家の長男が僕に訊ねた。
「ブザンソンです」
「ブザンソン?何もないところだぞ」
何もないといっても、別に観光名所があるからどうというわけでもないだろうに。
「城塞があるじゃないですか」
「でもストラスブールから比べれば田舎だな。で、住まいは?」
「アパート暮らしです」
「ひとりで?」
「いえ、アメリカ人と」
「また???!!!またアメリカ人と一緒なの?オーララー!!!」
僕は一瞬、吹き出しそうになった。次男のフィリップまでビックリしている。アメリカ人のマイクが同じテーブルを囲んでいるというのに。相変わらずマイクは無口だ。

2週間が過ぎた。あと半分だ。明日からは新たなメンバーでの授業開始となる。後半戦、楽しい生活に期待しよう!

第8話につづく

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