第4話
最初の1週間

おっかない看護婦バルバラは、僕がストラスブールに着いて3日目にバカンスで10日間程ギリシャに出かけていった。マダムの子供はバルバラの他に、アルザス建築の研究家と、南米研究家の息子さんがいて、2人とも40を過ぎてまだ独身だった。べらんめぇ口調のイメージが強いバルバラとは違い、2人は親しみやすかったが、何分いつも忙しく、話す機会があるのは夕食時だけだった。

地下にも幾つか部屋があり、3人の下宿人がいた。いずれも学生で、うち2人は看護学校に通っているフランス人だった。マダムに紹介され、年が近いこともあり、愉快な2人とは楽しく会話が出来たけれど、何分2人も学校の授業が相当ハードらしく、いつも勉強していた。ある時、僕の宿題を手伝ってもらおうと下に降りていったのだが、彼女らにも難しいらしくお手上げ!・・・フランス人にでさえ難しいことやってるってどういうこと?!

学校では相変わらず、さして仲の良い友達が出来る気配もなく、暇な夜を連日過ごしていた。僕の頭の中では、毎晩夜はパーテー!という、カンヌでの夢をふたたび・・・という甘い妄想を描いていたのだが、見事に打ち砕かれた。夕方にはしっかり家に帰り、家族とご飯を食べ、夜もおとなしく家にいる、という自分が不思議でならなかった。
「なんで家にいるんだろ?」
他の皆は、夜の街に繰り出して楽しく過ごしているんではないかね?と思うこともしばし・・・。

ノルウェー人のマヤとは同い年ということもあり、ランチを一緒に食べたり、観光に出かけたり、図書館で宿題をしたりしていた。しかし、僕は映画を観に行けば、すぐに首カックン、眠りの世界へと誘われる。美しい街を船に揺られて観てみようと、気持ちの良い昼下がりに観光用の船に乗れば、当然の如く首カックン。マヤは不思議そうな顔で、呆れた口調で言った。
「寝る為にお金払うなんて信じられない!」
別の日、映画を観に行った時は、決して寝まいと固く決心し、物凄い力で目を開けていたのが功を奏し、寝ずには済んだが、相当な気力で眠気を制したので、さすがに疲れ果ててしまった。

学校が始まって1週間経った日の午後は、先生の薦めで、大ヒット中だった映画「奇人たちの晩餐会」を皆で観に行った。勿論、僕は居眠り必須。セリフが早口なので、イマイチ内容が掴めず。この日の夜、クラスの人たちと初めて飲みに行った。これぞ待っていたトキメキの瞬間(とき)!でも、ドイツ人グループ始め、真面目組が多く、このメンバーでは1回切りだった。

帰りのバスで、よく見かける日本人の女の子と話した。関西の大学の学生で、1年間の留学で渡仏。半年過ぎたところだそうだ。すごく感じの良い人で、家が近くなので「今度遊びにおいでよ!」と誘われた。ストラスブールに来る前はアンジェの大学にいて、なんと僕の大学の先輩たちを知っていた。世界は狭い!

フランスに来て1週間が過ぎた。キツイ授業とヒマな夜の1週間。長かったような、あっという間だったような・・・。でも、この1週間目にして、楽しい時間を過ごし、幸せな気分で眠りについた。

第5話につづく

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